「⼗⼀⼈の賊軍」

「⼗⼀⼈の賊軍」©2024「⼗⼀⼈の賊軍」製作委員会

2024.11.12

「十一人の賊軍」のチケット代2000円が安すぎるワケ 凝縮、スピード、迫力の殺陣

〝アジア最大級〟の第37回東京国際映画祭。国内外から新作、話題作が数多く上映され、多彩なゲストも来場。映画祭の話題をお届けします。

洪相鉉

洪相鉉

「今古有神奉志士」。この剣を持つ者は、昔からの神々を敬い伝統を重んじる志士である。映画「ラストサムライ」で勝元(渡辺謙)がオールグレン(トム・クルーズ)に与えた刀に刻まれた銘である。「十一人の賊軍」を表現するのに、これほど的確な表現があるだろうか。

しかし、それが正しいと映画館で確認するには、二つの大きな制約がある。一つは、交通費を別にしても2000円の費用を用意し、上映時刻に間に合わせなければならないこと。同じ費用があれば、動画配信サービスで映画を好きな時間に見放題できる現実があるなら、なおさらだ。「自国の映画を応援しよう」「大切にしよう」などの当為論は、すでに説得力を失って久しい。金と時間をつぎ込むには、相応の理由が必要なのだ。


「時間が一瞬にして削られる」

それなら、これはどうだろうか。チケットを購入して客席に座れば、大型スクリーンと高性能のスピーカーを通じて、そのほとんどがフルオプションのホームシアターよりも格段に上質で、ましてやテレビ、あるいはパソコンのモニターと、ヘッドホンや小さなスピーカーが足元にも及ばない、極上の体験ができるのなら。そしてそこで登場人物に感情移入し、笑って、泣いて、究極のカタルシスを得られるならば。つまり「比べられない映画の魅力」を改めて感じられるなら。

プチョン国際ファンタスティック映画祭のプログラマー、金奉奭(キム・ボンソク)のアドバイザーとして日本映画を担当したことで筆者が縁を結んだ白石和彌監督は、2000円どころではない満足感を抱かせる監督であると断言できる。なにしろ、特有の演出力で、大資本の膨大な予算で製作されるブロックバスターに慣れ親しんでいる韓国の国際映画祭の観客たちに、「瞬削(一瞬にして時間が削られてしまう)監督」というニックネームで呼ばれたのだ。

「孤狼の血」以降、筆者は彼にインタビューを重ねてきた。人間的な関係性のため?  NO、日本映画界の厳しい現実の中でやっと確保した製作費に対して、その何倍もの経済的価値を生み出してしまうことがその根拠と言える、面白さと完成度のためだった。


「⼗⼀⼈の賊軍」©2024「⼗⼀⼈の賊軍」製作委員会


笠原和夫が教科書

「十一人の賊軍」は、数年ぶりに訪れた東京国際映画祭のオープニング作品だ。今年の日本映画の代表作のひとつとなると確信したことに加え、度重なる感動のあまり2度も見た筆者に白石監督が初めて投げかけた話題は、「仁義なき戦い」で「実録路線」を一ジャンルに定着させた大脚本家、笠原和夫の世界観が、自分の「教科書」だったということ。

これだけなら、上映時間が155分の大作となった理由にはならないだろう。しかし、進化を繰り返してきた白石監督のフィルモグラフィーの中でもスピード感が倍以上になったこのブロックバスターアクション活劇のシナリオは、いざ書いてみると270分程度の分量となってしまい、テンポがルーズになるという憂慮から圧縮に圧縮を繰り返したという告白を聞けば、大いに納得できる。

映画が始まれば、お笑い芸人、歌舞伎役者、相撲取り、さらにはアイドルなど現実でも集めがたい多様性を備えた11人が、あまりに精緻に統制され群像劇というのがはばかられるほど、一糸乱れず動きながら緊張感を高めていく。しかも体にワイヤを付けて非現実的な動作を繰り返し、「あれはウソ」と時々刻々認識させる凡百のアクションムービーとは全く異なる。それはそうである。本作は「必死に生きた名もなき人々、大きな政治にもみ潰され、後々の世界ではその存在さえ忘れられてしまった人々」、すなわち、他でもなく映画を見る我々が感情移入するのに最適化された11人が主人公だからだ。まさに日本活劇の系譜を継ぐ誇らしい力作となっている。


ヘミングウェーの小説のごとき強烈さ

これがすべてではない。現実感を極大化するためにデザインされた砦(とりで)のセットでさく裂する、特殊火薬と西部劇の要素が導入された銃撃戦、その中で刀の構え方から全身全霊をささげて徹底的に準備したという仲野太賀の「サムライアクション」と、彼が対峙(たいじ)するアンチヒーローとして登場し、奇跡的なケミストリーを見せている山田孝之は、実に「十一人の賊軍」を通じて生まれ変わったと表現しても過言ではない。コンサートホールで猛烈に響き観客を没入させる雄大な交響曲のような叙事のリズムには、ある意味ハリウッド映画を飛び越える強烈さがある。まるで短文が続き、次のページが気になってたまらないヘミングウェーの小説だ。

これに加わるのが、白石監督自身が演出家として深い愛情を持っていると明言した「千の顔の俳優」、阿部サダヲの名演である。それゆえに、本作は時代劇のジャンルや枠組みにとどまらず、背景を現代に変えても違和感がないブロックバスターアクションとなり、彼が表現した野望あふれる冷血な政治家の非情さで、サスペンスあふれる政治ドラマともなったのである。


PG12がふさわしい自由さ

かくして「十一人の賊軍」は「新しいものと古いものの調和」を越え、「数多くのジャンルが融合(fusion)する」日本映画の新しいマスターピースとなった。加えていえば、白石監督からアイドル、正確にはトータルパフォーマーとして活躍した経歴の持ち主だと聞いて、長年の経験を誇る俳優だと思い込んでいた筆者の勘違いに気づかされた鞘師里保は、意味深長な終幕で作品の品格を高めることに貢献している。

息が切れるほどの速度で書いてきたこの文の最後に一言だけ付け加えたい。東映の配慮で実現した数年ぶりのインタビューを終え、彼は「特に若い方々に見ていただきたい」と話していたが、筆者の考えは違う。この映画は「PG12」ではないか。「十一人の賊軍」に表現の制限などほとんどない。これこそ演出家として無類の進化を見せた白石監督の新作に対する、正しい前提ではないか。

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ライター
洪相鉉

洪相鉉

ほん・さんひょん 韓国映画専門ウェブメディア「CoAR」運営委員。全州国際映画祭ㆍ富川国際ファンタスティック映画祭アドバイザー、高崎映画祭シニアプロデューサー。TBS主催DigCon6 Asia審査員。政治学と映像芸術学の修士学位を持ち、東京大留学。パリ経済学校と共同プロジェクトを行った清水研究室所属。「CoAR」で連載中の日本映画人インタビューは韓国トップクラスの人気を誇る。

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  • 「⼗⼀⼈の賊軍」
  • 37回東京国際映画祭のレッドカーペットに登場したオープニング作品「十一人の賊軍」の出演者ら
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