磯村勇斗

磯村勇斗山田あゆみ撮影

2024.11.16

磯村勇斗 映画製作現場の環境改善に積極発言「仲間を探しています」

〝アジア最大級〟の第37回東京国際映画祭。国内外から新作、話題作が数多く上映され、多彩なゲストも来場。映画祭の話題をお届けします。

山田あゆみ

山田あゆみ

ハラスメント問題解決や働き方の改善をめざして、映画撮影現場の改革が、ようやく進み始めた。社会的な発言に消極的な芸能人からも、声が上がり始めている。磯村勇斗も、環境改善を求めて活動する一人だ。第37回東京国際映画祭では「ウーマン・イン・モーション」の座談会に参加。続く取材でも、問題意識を率直に語ってくれた。

 女性だけで解決できる問題ではない

「ウーマン・イン・モーション」では、俳優の菊地凜子、プロデューサーの岡野真紀子と現状を話し合った。自身はデビューから10年、現場の変化を感じているという。「近年は女性のスタッフさんが圧倒的に増えた。女性が働きやすい取り組みが、映像業界にも少しずつ広がっているようです。ただ、女性だけで解決できる問題ではないですから、男性も一緒に向き合い、理解していくことが大切だと思っています」

現在32歳の磯村は、自身と同じく30代の世代は問題意識が高いといい「現場では同世代の俳優や監督たちと問題改善のための話題になることはよくあります。昭和的なやり方も知っているし、時代の流れも見ているからこそ鋭い視点を持てると思います」。そんな中で年上のプロデューサーや監督にも積極的に意見することもあるという。「クリエーティブな活動にディスカッションはつきもので、年齢関係なしにそういった環境を作っていくことが大切」

日本と海外の撮影現場の違いについて、Netflix配信予定の「ソウルメイト」での撮影をソウルやベルリンで終えた磯村は、さまざまな気づきを得たという。「日本では、撮休でもスタッフさんが稼働していることがありますが、海外の現場では土日は絶対に休みでした。全員休みがきちんと取れていることで、心の余裕が圧倒的に違いました」。またノンストレスだったもう一つの理由として「日本よりもっと、LGBTQなど性的少数者や人種に対してオープンマインドに捉えている方が多いので、現場のスタッフさん同士が一つのチームとしてやるスタイルがとても心地よかった」そうで、違いを体感したようだった。

男性のインティマシーコーディネーターも必要では

昨今、話題にあがるようになったインティマシーコーディネーター(ヌードや性的描写などのシーンの撮影をサポートするスタッフ)について、磯村は俳優の視点で「男性には男性のインティマシーコーディネーターがいても良いのではないか」という意見をシンポジウムで語った。インティマシーコーディネーターがいない現場で裸のシーンを撮った際に「自分では大丈夫と言いながらも、違和感を抱いて、刃の薄いカッターでちょっとずつ傷つけられているような感覚になったときもありました」という。

シンポジウムでは「HOW TO HAVE SEX」の現場について「10代のキャストのためにインティマシーコーディネーターだけでなく、カウンセラーも常駐させたそうだ」という指摘があった。磯村も、石井裕也監督の映画「月」のさとくん役など難役を演じているが、カウンセリングを通さない役作りに今まで問題なかったという。ただ「自分では気づかないところで役に入り込んでしまって、気持ちのコントロールが利かなくなってしまうようなことがあるとしたら必要かもしれません。『月』でいうと、誰か、もしくは自分を傷つける恐れがあったなら、カウンセリングの活用も有効だったと思います」という。一方で「ただそうすると、カウンセラーも役と正面から向き合って役作りをすることになるので、難しさもあるのではないかと思います」と、演技に真摯(しんし)に臨むからこその発言もあった。

映画業界の問題解決のために取り組んでいることについては「同じような問題意識をもつ仲間を増やしていきたいと思っていて、今探しているところです」という。是枝裕和監督らが主導し、政府に設立を求めてきた映画戦略企画委員会が2024年9月に第1回の会議を開催した。磯村も公式な勉強会に参加するなど、日本の映画製作現場の環境改善について積極的に取り組んでいる。業界の抱える問題の深刻さを自覚したうえで、今後について語った。「1年や2年で変えられる話ではなく、是枝監督らが少しずつ変化をもたらしてくれています。この先10年かかるかもしれないですが、仲間が多ければその期間を短くできるはずです。今は、その仲間を増やす時間だと思っています」

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ライター
山田あゆみ

山田あゆみ

やまだ・あゆみ 1988年長崎県出身。2011年関西大政策創造学部卒業。18年からサンドシアター代表として、東京都中野区を拠点に映画と食をテーマにした映画イベントを開催。「カランコエの花」「フランシス・ハ」などを上映。映画サイトCinemarcheにてコラム「山田あゆみのあしたも映画日和」連載。好きな映画ジャンルはヒューマンドラマやラブロマンス映画。映画を見る楽しみや感動をたくさんの人と共有すべく、SNS等で精力的に情報発信中。

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  • 磯村勇斗
  • 第37回東京国際映画祭「ウーマン・イン・モーション」に参加した岡野真紀子
  • 第37回東京国際映画祭「ウーマン・イン・モーション」に参加した菊地凜子
  • 第37回東京国際映画祭「ウーマン・イン・モーション」に参加した磯村勇斗
  • 第37回東京国際映画祭「ウーマン・イン・モーション」に参加した(左から)磯村勇斗、菊地凜子、岡野真紀子
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