シニアイヤー Netflixで独占配信中

シニアイヤー Netflixで独占配信中

2022.6.05

オンラインの森:「シニアイヤー」20年の眠りから目覚め 「平等」社会でアップデート

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、大野友嘉子、梅山富美子の3人に加え、各ジャンルの精鋭たちが不定期で寄稿します。

ひとしねま

須永貴子

「ピッチ・パーフェクト」シリーズで知られるコメディエンヌ、レベル・ウィルソン主演のNetflixオリジナル映画。20年の昏睡(こんすい)状態から目覚めた37歳の女性、ステファニーが、夢だったプロムクイーンを目指して高校の最終学年をやり直すコメディー作品だ。ウィルソンはガールズエンパワーメントの一翼を担う存在だが、本作はその枠にとどまらず、より幅広い層に響く内容になっている。


プロムクイーン目指すチア部主将37歳 

17歳のステファニーはハーディング高校チアリーダー部の主将で、アメフト部のクオーターバックと交際し、高校生活最後のプロムでクイーンの座を狙う、つまりはスクールカーストの最上位者だ。ところがライバルのティファニーが仕組んだわなにはまり、チア中の事故が原因で昏睡状態に陥ってしまう。
 
20年後の2022年、ステファニーは突然覚醒する。見た目は37歳だが中身は17歳なので、ビジネススーツを着た親友のマーサを「セックス・アンド・ザ・シティ」のミランダに例え、雑誌の表紙のレディー・ガガを見て「マドンナと同一人物?」と困惑し、誰もが当たり前のように携帯電話を持つ世界に「クール!」と大興奮。カルチャーやテクノロジーに対してタイムトラベラー的に反応するステファニーに周りが動揺するという構図が、笑いのジャブになっている。
 

政治的正しさ浸透 ジェンダーレスに

ところが、37歳のステファニーが、20年前と変わらない部屋で、20年前の服を着て、ティーン特有の無敵の表情でポーズを決めるあたりから、無邪気に笑えなくなってくる。外見に中身の成熟が追いついていない彼女が、人ごととは思えないからだ。
 
母校に復学したステファニーは、この20年でいわゆるポリティカルコレクトネスが浸透し、校内が大きく変わったことを知る。20年前に軽く使っていた「ゲイ」というワードはセクシュアルマイノリティーへの差別用語となり、生徒に順位を付けるプロムクイーン&キングは廃止。チアリーディング部のユニホームがジェンダーを問わず一律パンツスタイルになり、男女の役割を誇張したセクシーな振り付けが封印されていた。その変化の源は世間的な潮流はもちろんのこと、ハーディング高校の校長になっていたマーサが目指す「equality(平等)」という理念にあった。


目標:友だち作る→フォロワー増やす

卒業までの期間は2カ月。「友達を作る」「チアの主将になる」「プロムクイーンになる」といった02年的な目標を壁に貼り付けたステファニーは、22年の価値観にアジャストしながら(例:「友達を作る」→「フォロワーを増やす」)、一つ一つ目標をクリアしていく。あっさりと携帯&SNS中毒になり、親に怒られたときは「まだ今に慣れてないの! 『ワイルド・スピード』に続編が8本もあるなんて!」と言い訳し、終盤ではある状況を20年のNetflixドキュメンタリー「タイガーキング」に例えるあたり、なんという順応性と吸収力!
 
登校初日は37歳にはちぐはぐだった20年前の洋服も、日に日に今風に着こなすセンスを見せる。しかし、「プロムクイーンになる」という目標だけは揺るがない。彼女にとってはこの目標をクリアすることが、失われた20年を取り戻すための通過儀礼として、どうしても必要だったのだ。
 

多様性実現したダンス場面の多幸感

表向きは、ステファニーの奮闘やロマンス、友情、新たなライバル(校内どころか世代を代表するインフルエンサー)とのクイーン争いを温かいまなざしで描く、ハートウオーミングで弱毒性のコメディーに仕上がっている。夢を実現するのに年齢は関係ないというメッセージも王道だ。しかし本作はそれだけで終わらない。視聴者は「自分はステファニーのように、価値観をアップデートできているのだろうか?」という問いを自分に投げかけずにはいられないだろう。

リアリティーに関する細かい部分(20年前の服が入るのか? ティファニーの罪はごめんで済むのか? 20年の昏睡状態から目覚めてすぐに自力で歩けるはずがない、など)にツッコミを入れ始めるときりが無いが、目覚めたステファニーに医師が言い放つ「ありえない」というせりふが巧妙だ。だからちりばめられたダンスシーンの高すぎるクオリティーも楽しめる。
 
ネタバレを避けるために曲名やシチュエーションは伏せるが、02年のチアダンスはジェンダーバイアス丸出しの振り付けだったが、ラストシーンではジェンダーの役割から解き放たれた振り付けに変化する。さらにエンドロールでは、主要キャスト、エキストラ、スタッフが分け隔てなく一緒に踊る。この多幸感あふれる光景に、均質ではなく多様性のある「equality」が実現されている。
 
Netflixにて独占配信中。

ライター
ひとしねま

須永貴子

すなが・たかこ ライター。映画やドラマ、TVバラエティーをメインの領域に、インタビューや作品レビューを執筆。仕事以外で好きなものは、食、酒、旅、犬。

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