冬薔薇  ©2022「冬薔薇(ふゆそうび)」FILM PARTNERS

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2022.6.03

トピックス:冬薔薇(ふゆそうび)

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

専門学校生の淳(伊藤健太郎)は、学校にも行かずその日暮らしの半端者。半グレ集団に加わって犯罪に加担し、同級生から金を借りて返さない。海運業を営む両親(小林薫、余貴美子)とは同居しながら会話もない。再会した元教師のいとこ貴史(坂東龍汰)もワケありで、やがて事件が起きる。

阪本順治監督が自身のオリジナル脚本で描く群像劇だ。淳ばかりでなく両親も貴史も、登場するのは不完全な人ばかり。「善」と「悪」の境界で危うく揺れながら、生きる道を模索する。阪本監督は彼らを断罪もひいきもせず厳しく見つめ、しかし見捨てない。人間のどうしようもない弱さとたくましさを奥行き深く活写した。

冬薔薇(そうび)とは冬の寒さに耐えて、けなげに花を咲かせるバラの種類。タイトルに阪本監督が託した思いがうかがえる。伊藤がはまり役。善良な雰囲気がかえって淳のダメ人間ぶりを際立たせた。

1時間49分。東京・新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマほか。(勝)

ここに注目

登場するどの人物にも鬱屈や挫折、孤独感が漂う。何かが変わるわけでも成長するわけでもない。暗い、ともいえるのだが、セリフや人の動きに残像がある。もっと言えば人の匂いであり、人がいたことを示すぬくみ。人間くさい人たちのもがく姿が、静かに心を揺さぶるのだ。(鈴)

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