「ドライビング・バニー」©2020 Bunny Productions Ltd.

「ドライビング・バニー」©2020 Bunny Productions Ltd.

2022.9.30

ドライビング・バニー

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

ニュージーランドのオークランド。車の窓拭きで細々と稼ぐバニー(エシー・デイビス)の願いは、離れて暮らす子供たちと再び同居すること。しかし継父に迫られるめいのトーニャ(トーマシン・マッケンジー)を救おうとして、居候先の妹の家を一文無しのまま追い出されてしまう。

子供たちを奪還するために、バニーはルール無視であらゆる手段を実行していく。あまりにも無鉄砲すぎる行動を責める気にならないのは、それらが彼女の〝正義〟であり、子供たちへの愛情が痛いほどに伝わってくるからだ。

ゲイソン・サバット監督は交差点での労働やしゃくし定規な行政の対応、ワイヤが飛び出たブラジャーを見つめる場面など細やかな描写を重ねながら、格差社会の現実をあぶり出した。ユーモアと優しさを持つバニーのたくましさにも光を当てて映画は幕を閉じるが、ここまで弱者を追い込み、個人戦を強いる社会とは一体何なのか、考えずにはいられなくなる。1時間40分。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(細)

ここに注目

どん詰まりの現実にあえいで空回りを重ねる女性が、痛々しさと背中合わせの笑いをまきちらす。ついには警官隊が出動する大事件を引き起こすが、ラスト直前に主人公がつぶやくあるひと言がすごい。「ババドック 暗闇の魔物」でも孤立した母親を演じていたデイビスが圧巻。(諭)