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2024.5.11

コロナ禍、物価高、チケットの値上げ……不振の韓国映画界は過去の栄光を取り戻せるか?  決め手はラージ・フォーマット?

映画でも配信でも、魅力的な作品を次々と送り出す韓国。これから公開、あるいは配信中の映画、シリーズの見どころ、注目の俳優を紹介。強力作品を生み出す製作現場の裏話も、現地からお伝えします。熱心なファンはもちろん、これから見るという方に、ひとシネマが最新情報をお届けします。

児玉愛子

児玉愛子

長年、好調だった韓流コンテンツだが、ここにきて韓国映画界に異変が起きている。大作が次々と興行に失敗し、かつての勢いが失われているのだ。韓国といえば、新型コロナウイルス感染拡大前の映画館での鑑賞回数は1人あたり年平均4.3回で世界1位だった。ところがコロナ明けの23年はその回数も激減し、2.4回にまで落ち込んでいる。コロナ禍前と比べ、45%も減少しているのだ。
 
自国の映画が大好きな国民性だが、23年は観客動員数が1000万人を超える韓国映画の大ヒット作も「ソウルの春」と「犯罪都市 NO WAY OUT」の2作品のみ。イ・ビョンホンとパク・ソジュンが共演した話題作「コンクリート・ユートピア」でさえ遠く及ばなかった。「コンクリート・ユートピア」は総制作費が220億ウォン(約24億円)ともいわれる超大作だ。それでも観客動員数は思いのほか伸び悩み、384万人にとどまっている。これは韓国で公開された日本のアニメ映画「すずめの戸締まり」の557万人、「THE FIRST SLAM DUNK」の478万人よりも少なく、損益分岐点を越えることができなかった。こうした厳しい結果に投資家たちも震えが止まらなかったことだろう。
 
映画館に足を運ぶ観客が減っているのだから、当然、映画館全体の売上高も大幅に落ち込んでいる。コロナ禍前は1兆9140億ウォン(約2140億円)だった売り上げも、23年は1兆2614億ウォン(約1410億円)で、好調だったときと比べると65.9%の水準になっている。韓国ではチケット代の3%はKOFIC(映画振興委員会)が映画発展基金として徴収し、映画の制作や配給等に使われる仕組みだ。興行収入が減少すれば映画界には大打撃となる。
 

上りゆくOTTと、沈みゆく映画館

ここまで観客が減った要因はいくつかあるが、韓国人が真っ先に口にするのはチケット代の値上げだ。コロナ禍、韓国を代表する映画館大手の「CGV」「ロッテシネマ」「メガボックス」が次々と観覧料の値上げを実施。チケット代はコロナ禍の前より日本円で100~500円ほど高くなった。しかも全体的に物価も高騰しているのだ。家族や恋人同士で映画を観に行き、外食までするとなったら負担が大きく、以前のように気軽に映画館に行こうとは思えないだろう。

CGV龍山(IMAX)左は「鬼滅の刃」、右奥は大ヒット上映中のホラー映画「破墓(パミョ)」
 
人々の映画館離れはネットフリックス等のOTTの普及も大きく影響している。ネットフリックスの利用者数は、日本と同じく韓国でも増加。コロナ禍前は135万人だった利用者が今年1月には814万人にまで増えている。韓国の消費者調査専門機関によれば、この一年での映画視聴は劇場での観覧よりもOTTが上回ったという。いまや映画のチケット代よりOTTの月額利用料のほうが安いのだ。当然といえば当然の結果だろう。こうした背景からネット上では「これから映画はネットフリックスで見よう」という言葉であふれ返っている。
 
とはいえ、この調査でも明らかになっているが、今も「新作だけは劇場で見たい」と思う人たちも少なくない。特に大作映画はネット配信よりも劇場のほうが大型スクリーンと最適な音響が期待できるという回答が多かったようだ。

 ロッテシネマ(カラーリウム)他の映画館とは一線を画す精巧な色合い
 

チケット代を値上げした映画館に秘策はあるのか!?

韓国の劇場も単にチケットを値上げして、観客が離れていくのを傍観していたわけではない。実際、OTTでは決して味わえない映画館ならではの設備「ラージ・フォーマット」に力を入れ、観客を取り戻そうとしている。「CGV」は映像美と高精度なサウンドが楽しめる没入型シアターのIMAXが人気だ。中でもソウルの龍山(ヨンサン)にあるCGVは世界最大規模のIMAX用スクリーンで、迫力ある映像が魅力といわれている。一方、「ロッテシネマ」は世界最大のLEDスクリーンを導入した〝カラーリウム〟が特徴。鮮やかで精巧な色合いは、特にアニメ映画で視覚的快感を楽しめると好評だ。「メガボックス」といえば、最先端の映像処理技術と立体音響システムを取り入れたドルビーシネマで臨場感あふれるサウンドを体感できる。日本のアニメ「THE FIRST SLAM DUNK」の試合シーンをあえてこの劇場で楽しんだファンも少なくないという。 〝映画ツウ〟〝映画オタク〟ともいわれる映画好きの人たちは、こうした特徴を熟知し、作品によって映画館を選んでいる。「スラムダンク」1本にしても、迫力を楽しむならIMAXの「CGV」、顔の鮮明さを重視するならカラーリウムの「ロッテシネマ」、サウンドに期待するならドルビーシネマの「メガボックス」と、自分の好みで劇場を選び、足を運ぶのだ。

チケット代が値上がりしているので、週末料金となるとIMAXは2万2000ウォン(約2440円)、カラーリウムは1万7000ウォン(約1880円)、ドルビーシネマは2万ウォン(約2220円)にもなる。かつて日本と比べて半額以下だった韓国の映画チケットもかなり高騰した印象だが、それでも映画ファンはやはりOTTでは満足できないようだ。

 メガボックス(ドルビーシネマ)で公開されていた「デューン 砂の惑星 PART2」

ちなみに、今年に入ってからの韓国映画界はホラー映画「破墓(パミョ)」が大ヒットしている。観客動員数は1183万人を突破し、現在はホラー映画好きの台湾でも大ヒット上映中だ。また、〝マブリー〟の愛称で親しまれているマ・ドンソク主演の人気シリーズ「犯罪都市4」も公開直後だが、すでに884万人を動員(5月9日時点)。韓国人が大好きなシリーズなので、こちらも1000万人を突破するかどうかが注目されている。どちらの作品もOTTではその迫力が半減するだろう。
 
一年の1/3が過ぎた今、ヒット作がこの2本だけというのが気になるところではあるが、過去にも通貨危機後に映画文化を発展させるなど、ピンチをチャンスに変えてきた韓国だ。映画界においても、お得意のドラマチックな逆転劇を期待したい。

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ライター
児玉愛子

児玉愛子

韓流エンタメ誌、ガイドブック等の企画、取材、執筆を行う韓国ウオッチャー。新聞や雑誌、Webサイトで韓国映画を紹介するほか、日韓関係についてのコラムを寄稿。Webマガジン「オトナの毎日」でイラストエッセー【毎日がエンタメ】を連載中。

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  • CGV龍山(IMAX)左は「鬼滅の刃」、右奥は大ヒット上映中のホラー映画「破墓(パミョ)」
  •  ロッテシネマ(カラーリウム)他の映画館とは一線を画す精巧な色合い
  •  メガボックス(ドルビーシネマ)で公開されていた「デューン 砂の惑星 PART2」
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