「あちらにいる鬼」©2022「あちらにいる鬼」製作委員会

「あちらにいる鬼」©2022「あちらにいる鬼」製作委員会

2022.11.11

「あちらにいる鬼」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

1966年、小説家の長内みはる(寺島しのぶ)と白木篤郎(豊川悦司)は、パートナーや妻子がありながら男女の仲になる。篤郎は家庭では妻の笙子(広末涼子)の料理を褒め、幼い娘たちを可愛がる夫であり、父だった。

作家・井上荒野が、父である井上光晴と母、若き日の瀬戸内寂聴との関係を描いた同名小説を広木隆一監督が映画化。監督と組んできた荒井晴彦が小説を忠実に脚本化し、原作の心情描写がセリフに織り込まれている。言葉で語られるシーンも多いが、それぞれの〝顔〟が伝えるものが多い。みはるが出家のために剃髪(ていはつ)する時の穏やかなほほえみや、白木家を訪れた帰りのタクシーで見せる涙。笙子がひとりでお茶を飲むシーン。身勝手なのになぜか愛される男、篤郎がどんな時も外すことのないメガネ越しに見せるまなざし。寄りのカットで切り取られた表情が、たやすく説明がつかない奇妙な三角関係の答えは、それぞれの内側にしかないと伝えているかのようだ。2時間19分。東京・シネスイッチ銀座、大阪・梅田ブルク7ほか。(細)

ここに注目

息をするように女性を口説く篤郎はどうしようもない男だけど、なぜか魅力的。みはるがのめり込むのも何となく納得できる。夫の不倫を黙認している笙子の本音はどうだったのだろう。3人がそろうシーンは、表面上は穏やかでも緊張感に満ちていて目が離せなかった。(倉)

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