©2024「カラオケ行こ!」製作委員会

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2024.5.20

作品をお客さまに育ててもらった! 「カラオケ行こ!」実写映画におけるキャラクタービジネス

公開映画情報を中心に、映画評、トピックスやキャンペーン、試写会情報などを紹介します。

宮脇祐介

宮脇祐介

大ヒットアニメが年間の興行収入の約20%

新型コロナウイルスが5類に分類されて1年がたった。昨年の年間興行収入は2214億8200万円で2000年以降5番目の好成績を記録した。アニメの大ヒット作が目を引いたが、改めて見てみると「THE FIRST SLAM DUNK」(158.7億円)、「名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)」(138.8億円)、「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」(140.2億円)で1年間の興行収入の約20%を占めていることになる。
 
それに反して邦画実写はまだまだ回復途上。シリーズ、テレビ番組の劇場版を除くと10億円以上が11本。新型コロナウイルス以前の5年間では20本を前後するあたりが当たり前だったので物足りない。昨年担当した「アナログ」は12.2億円と大ヒットした。しかし、もっと数字が上振れしてもよいポテンシャルを持った作品だったと感じている。
 

うれしい兆し

そんな邦画実写にモヤっとした思いを抱えたまま、明けて24年も5月になった。今年も3分の1を終えて少しうれしい兆しが見えてきた。邦画実写のヒットが目についてきた。「ゴールデンカムイ」や「変な家」、「4月になれば彼女は」のブロックバスター作品だけでなく、「カラオケ行こ!」、「夜明けのすべて」、「マッチング」など個性あふれる中規模作品が観客の心をつかんだのだ。
 


「カラオケ行こ!」はコミック原作でやくざと中学生のカラオケを通した年を超えた友情、「夜明けのすべては」は小説原作でパニック障害・PMS(月経前症候群)の2人、「マッチング」はオリジナルスリラーで二転三転の物語を描いている。なかなか、新型コロナウイルス禍に見舞われた邦画実写では難しい題材だが堂々のヒットを記録している。
 

勝利の方程式とかけ離れた作品

そんな中でも、2004年公開「世界の中心で、愛をさけぶ」以来の邦画の勝利の方程式、「ONE LOVE,ONE DEATH」(ラブストーリーがあって、その中の誰かが死ぬ)と最もかけ離れた作品だと思われる「カラオケ行こ!」は5月6日時点で7.8億円の興行収入を上げている。同じくKADOKAWAから発売されている単行本は映画化決定時の40万部から、80万部と倍増した。すでに配信が始まり、パッケージも発売されているにもかかわらず、5月5日「成田狂児大生誕祭」が行われ、再び劇場にファンが詰めかけたと言うのだ。

 

普通の映画だったら3億円にも満たない

そんなヒットの裏側についてこの映画を担当したKADOKAWAの二宮直彦、大﨑紀昌両プロデューサーに話を聞いた。
 
二宮と大﨑が口をそろえて言うのは「作品をお客さまに育ててもらった」ということ。二宮は「初日から3日間で8000万円。普通の映画だったら3億円にも満たない最終興行成績ペースだが、2週目が前週を超えた。原作ファンが1週目の口コミの高評価を見て数多く来てくれた。ここからできることを考え、入場者プレゼントや度重なる舞台あいさつを行った」と言う。
 

映画ならではのエピソードを創作

原作は1巻読み切りのコミック。脚本家の野木亜紀子が原作を尊重しながら映画オリジナルのエピソードを加えてプロットを作った。「その本打ちは非常にスムーズに進みました。映画ならではのエピソードを創作しつつ原作の持つ繊細な魅力をかなり高いレベルで立体化してくれた」と二宮は当時を振り返った。「紅」の英語詩の和訳、映画を見る部、巻き戻せないVHS再生機などのエピソードは映画オリジナルのものでそのプロットから入っていたと言う。
 
脚本を読んだ原作者の和山やまからも「とても楽しくすてきな物語でした」と喜ばれ、映画オリジナル要素も含めて非常に高い評価だったと大﨑は語った。
 
その脚本を今年多くの作品が公開され一躍ズームアップされている山下敦弘監督が独特の笑いのセンスで傑作に仕上げた。
 

成田狂児、岡聡実がIP化

二宮と大﨑は20回以上にわたる舞台あいさつで気づいたことがあったと語った。「回を重ねるごとに俳優としての魅力ではなくそれぞれの役としてキャラクターに置き換えられて愛されていった。成田狂児、岡聡実がIP化しグッズも想定を大きく超えて売れた。事務所からの理解を得て作った成田狂児や岡聡実のアクリルスタンドの反響はすごいものだった」そうだ。

 
「実写映画におけるキャラクタービジネスはこれから意識すべき一つの道だと気づかせてくれた作品。マーベル作品ファンは出演俳優と同時に演じたキャラクターがさまざまな形でビジネスを構築している。これからの邦画の活路の一つであり、海外進出と同時に各所に理解を得ながら想定すべき要素だと思う」と話を結んだ。
 
このヒットは「カラオケ行こ!」から生まれた成田狂児、岡聡実がさらなるメディア展開や続編「ファミレス行こ。」の映画化、そして世界に広がっていくのだろうと大いに期待している。
 
これからも劇場では「告白 コンフェッション」、「あんのこと」、「朽ちないサクラ」など意欲作が続々と公開される。邦画の多様性を継続していくには映画賞だけでなく、興行をはじめとしたあらゆるビジネスの面での成功が必要だと改めて感じるインタビューだった。

ライター
宮脇祐介

宮脇祐介

みやわき・ゆうすけ 福岡県出身、ひとシネマ総合プロデューサー。映画「手紙」「毎日かあさん」(実写/アニメ)「横道世之介」など毎日新聞連載作品を映像化。「日本沈没」「チア★ダン」「関ケ原」「糸」「ラーゲリより愛を込めて」など多くの映画製作委員会に参加。朗読劇「島守の塔」企画・演出。追悼特別展「高倉健」を企画・運営し全国10カ所で巡回。趣味は東京にある福岡のお店を食べ歩くこと。