パプリカ

パプリカ© 2006 Madhouse, Inc. and Sony Pictures Entertainment (Japan) Inc. All Rights Reserved

2024.10.05

6年ぶりに見た「パプリカ」! 今の時代や自分なら分かる、登場人物たちがもがきながら生きる現実

Y2K=2000年代のファッションやカルチャーが、Z世代の注目を集めています。映画もたくさんありました。懐かしくて新しい、あの時代のあの映画、語ってもらいます。

下地芽衣

下地芽衣

理想の自分と現実の自分に差異はあるだろうか。かなえられなかった夢、本当の自分。この作品では人のさまざまな夢の形が描かれていく。
 

〝本当の自分〟のまま生きていく勇気、ある?

 精神医療研究所で働く主人公の千葉敦子は、他人の夢を共有できる画期的装置「DCミニ」を使用し、現実の自分とはかけ離れた別人「パプリカ」の姿でカウンセリングを行う優秀なサイコセラピストだ。そして彼女は「DCミニ」を開発した研究所の天才科学者・時田浩作に思いを寄せていた。
 
時田は「子供のまま大人になった」といわれるほどの変わり者で、自分をまったく偽らない男だった。現実を生きていく上で、時田のように本当の自分を守り通すことは難しい。社会で自分を貫くにはよろいを着なければならず、よろいを着ることによって自分のなりたい姿からは遠ざかっていく。しかし、よろいを着ずに素直でいることは、いばらの中を裸足で走っていくようなものだ。人の体は痛みに耐え強くなっていくものでもある。よろいを着ることによって強くなることもできるが、ハリボテの強さはいずれ自分をもろいものにしてしまう。
終盤、難題を突きつけられた敦子は、最終的に自身が本心から望む選択をする。そんな敦子に対してパプリカは「素直になってきたじゃない」という。時田やパプリカとのかかわりを通して、敦子が自分自身に素直になりよろいを脱ぎ捨てていく姿を見て、よろいを着がちな私もいずれはそれを脱ぎ、自分に素直に生きていく勇気を持ちたいと強く思った。
 

初見から6年たって分かる、夢を諦めた主人公の未練

 もう一人の主人公である粉川刑事は、不安神経症を患っており、極秘にパプリカのカウンセリングを受けていた。粉川が抱えるトラウマの原因と、なぜそこまで追い詰められていたのかは、中盤で明らかになるのだが、この映画を初めて鑑賞した15歳当時の私には、粉川がなぜ過去の夢にとらわれているのかが理解できなかった。
しかし、21歳になった今の私には、彼が抱えていた自分の過去がまとわり付いてくる感覚がなんとなくつかめ、粉川自身の夢の形の輪郭をたどることができる。青春時代に夢を追って情熱を注ぐも、その夢を諦めざるを得なかった人には、この夢の形に見覚えがあるはずだ。登場人物それぞれに存在する夢の形が描かれるこの作品の魅力は、誰の目線で物語を追うかで、見るたびに印象と共感度が変わるところだろう。初見の時、序盤からアクセル全開の世界観に私の脳みそは悲鳴をあげた。しかしその混乱こそが、無意識の夢の世界観を表しているのではないかと感じたことをきっかけに、ストーリーに入り込むとともに現実の自分にも目が向いた。
 

夢と現実=光と影? バランスの妙を楽しむ作品

夢は現実ではないが、現実もまた夢ではない。この作品では、夢と現実のバランスについても描かれている。パプリカが「抑圧された意識が表出するっていう面ではネットも夢も似てると思わない?」と言うシーンがある。現代社会は多くの人が抑圧のない場所を求めてインターネットにのめりこんでいる。現実と夢は遠く感じるかもしれないが、現実とインターネットならどうだろうか。近ごろはVRCといったバーチャルリアリティーの世界も普及し、現実との距離がかなり近くなっているように感じる。もしも抑圧が少ないインターネットが現実との境界を越えてしまえば、現実も映画の中のパレードのようなものになってしまうのかもしれない。しかし、現実という薄暗いリアルがあるからこそ、夢という明るく輝くものが生まれる。このバランスを私たちは忘れてはいけない。この作品を見ることで、覚醒しながら夢を見ているような不思議な感覚と、現実と夢の絶妙なバランス感をぜひ味わってみてほしい。 

「パプリカ」

セルブルーレイディスク 品番:BRS-41985
価格: 5695円+税
リリース日:2007年5月23日 発売・販売:(株)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

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ライター
下地芽衣

下地芽衣

2002年8月16日、沖縄県生まれ。国学院大学文学部哲学科在学中、現在大学4年生。
23年6月よりガールズユニット「Merci Merci」3期生として活動開始。幼少期より17年間打ち込んできたクラシックバレエを得意とする。
好きな映画は「スター・ウォーズ」「バーレスク」「さよならの朝に約束の花をかざろう」などの洋画やアニメ映画。

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