ロシアとの激しい戦闘が続くウクライナ。ニュースでは毎日、町が破壊されていく様子が映されています。映画は無力かもしれませんが、映画を通してウクライナを知り、人々に思いをはせることならできるはず。「ひとシネマ」流、映画で知るウクライナ。
2022.3.09
「ひまわり」 1970年 ビットリオ・デ・シーカ監督
戦争が引き裂いた愛
ウクライナが舞台の映画といえば、多くの人が真っ先に思い浮かべるのは、イタリアの2大スター、ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニ主演の悲しい愛の物語「ひまわり」だろう。大地の隅々まで埋め尽くす黄色いひまわりの風景に目を見張り、ヘンリー・マンシーニの哀感極まる音楽と、戦争によって引き裂かれた男女の愛に涙腺を刺激された方も少なくないのではないか。1970年9月に日本で初公開され、その後もリバイバル、名画座などで愛され続け、50年の時を超え恋愛映画を代表する一本となっている。
帰らない夫を捜してソ連へ
第二次世界大戦下のイタリア。ジョバンナ(ローレン)とアントニオ(マストロヤンニ)は結婚して幸せな日々を送っていたが、アントニオは兵士としてソ連に送られる。ジョバンナは終戦になっても帰らない夫の無事を信じて単身ソ連に行き、夫を捜し出す。アントニオは過酷な戦場で倒れ、命を救ってくれた地元の女性マーシャ(「戦争と平和」のリュドミラ・サベーリエワ)との間に家庭を築いていた。ジョバンナは逃げるようにイタリアに戻っていく……。
監督は「靴みがき」「自転車泥棒」などのイタリアの巨匠ビットリオ・デ・シーカ。イタリア、フランス、ソ連、アメリカの合作映画で、冷戦期にソビエトで初めて撮影された西側諸国の映画といわれている。
無数の兵士と農民、老人と子供が眠るひまわり畑
ジョバンナとアントニオの、ユーモアあふれる陽気で情熱的な愛の日々は戦争で一転し、極寒の戦地のアントニオ、その消息を懸命に捜すジョバンナ、かれんで芯が強いマーシャへとトーンを大きく変えていく。たくましさと気丈さ、切なさと悲しみを抱えた女性2人の姿が、風にそよぎ咲き誇るひまわりと重なる。ジョバンナとアントニオの別れと悲痛な再会、数年後のさらなる別れと人生の分岐点を列車の駅で彩る演出も情感を揺さぶる。
広大なひまわり畑は、首都キエフから南に500キロほど離れたへルソン州で撮影された。映画に登場するのは3度。冒頭とラスト、ジョバンナが夫の行方を探してウクライナの地を踏んだ時だ。ひまわりの壮大な畑の下には、「イタリア兵とロシア人捕虜、無数のロシアの農民や老人、子供らが眠っている」という地元女性のセリフがある。丘陵を埋め尽くす墓地も映される。ウクライナは幾度も戦禍に見舞われてきた。
ウクライナの国の花はひまわりだ。ロシア侵攻後、ウクライナ人女性が、ヘルソン州ヘニチェスクでロシア兵士と相対した時、「戦死しても花が咲くようにひまわりの種をポケットに入れて持って行きなさい(あなたがウクライナの土地で死んだときに花が育つように)」と話したことが、インターネット上で話題になった。女性は銃にひまわりの種で相対したのだ。
ウクライナ支援の象徴に 各地で上映会も
いま日本でも世界各国でも、ひまわりの花を身につけることでウクライナへの支援、ロシアへの抗議の意を示す人たちが絶えない。3月初めにヘルソン州政府の庁舎がロシア軍によって占拠され、人口約30万人の都市ヘルソンも制圧されたという。戦火がまたしてもあの地を襲っている。
「ひまわり」の中で、再会したアントニオがジョバンナに声を詰まらせ、切々と話すシーンがある。「戦争は残酷なものだ。実に……ひどいものだ。残酷だ」
ウクライナ情勢を受け、「ひまわり」公開50周年HDレストア版での上映が大阪・シアターセブンで3月19~25日、新潟・高田世界館で3月28日~4月8日、横浜・シネマリンで4月16~22日まで予定されている。