©️「数分間のエールを」製作委員会

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2024.6.22

頑張りたくても、頑張れないときってあるんだよ。「数分間のエールを」

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

堀陽菜

堀陽菜

「甘えるな」「踏ん張れ」「もっとできる」とか、他人にどんな言葉で鼓舞されようとも頑張れないときだってあるよ。人間だから。皮肉なことに人は「夢」を追っている最中にも頑張ることにしんどくなる。当然ながら、私自身もそうだ。
 

人の心を動かす仕事に就きたい

モノ作りの世界に没頭した高校生の朝屋彼方は、自作のMV(ミュージックビデオ)を制作し、〝人の心を動かす仕事に就きたい〟と将来に期待を抱く。ある日、彼は街中でストリートライブをしていた織重夕と出会う。彼女の歌に心を動かされた朝屋彼方は自分でMVを作りたいと思う。しかし織重夕はミュージシャンという夢を一度諦めた、いわば〝終わった〟人だった。


 

まるで光と闇

この作品の一番面白いところは彼方と夕の対比である。モノ作りに希望を抱いて〝始まろう〟としている彼方と、モノ作りで挫折して〝終わろう〟としている夕。若いパワーで何事にも挑戦できてしまう彼方と、年を重ねて現実に失望した夕。この二人の世界はまるで光と闇である。彼方のような若い気持ちは根拠のないパワーみたいなものを持っている。高校生という若さゆえに、「何でもできそう」という気持ちで全力を出せる。
 

「がむしゃら」には賞味期限がある

この作品を見た、当の自分は……と、ふと思った。この作品を見た自分の率直な気持ちは、どちらかと言えば……というか、完全に夕に肩入れしていた。もし、ほんの1、2年前にもしこれを見ていたら、おそらく彼方みたいに全力で突き進む人間にしか共感できなかったかもしれない。昔、大人に数えきれないほど言われた「今は若いからそうやって頑張れるだけだよ」って言葉がある。そのたびに「夢も希望もない、そんな事言わないでよ」って感じていた。でも、今はその時の大人の意見が理解できるようになってしまっている。「悲しい」というよりは「悔しい」。改めて「がむしゃら」には賞味期限があるんだと、ここ最近は思わされている。

 

嫉妬してしまっているのだろうか

年齢を重ねるごとに、いろんな経験をして、いろんな人と出会って、いろんな意見に触れて、いろんな世界を見て、頭の中の思考回路が複雑になってきた。だからこそ、彼方のような「何でもがむしゃらです!」みたいな人には時々腹が立つ。「無知は強い」とよく言うが、今は何も知らずに突き進んでいく人を肯定したくない。いや、ただただ羨ましさが勝って、がむしゃらな人間に対して嫉妬してしまっているのだろうか。世の中には私よりももっと苦労している人は星の数ほどいるだろうし、私なんかが挫折を語るのも恥ずかしい話だが、この作品は「夢」に悩んでいる人ほど見てほしい作品だと心の底から思った。

 もしかすると巡り合わせ

必死に追いかけてきたものが、気が付いた時に見失ってしまうことは残念ながらあり得ることだ。そういったキラキラしたものが急に煩わしくなる瞬間を、まさに私は味わっている。そんな時にこの作品と出会ったのは、もしかすると巡り合わせなのかもしれない。
 

最後まで「信頼できる」作品

この作品の好きなところは、すべてを奇麗ごとで終わらせないところである。どう見たってアニメの主人公としてふさわしいのは明るくがむしゃらな彼方の方である。だが、夕のような〝廃れた〟人間に対しても手を差し伸べてくれるようなそんなストーリーが本当に心地良い。夕はどうして夢をあきらめてしまったのか、その部分に丁寧にフォーカスを当ててくれている。人生は一筋縄ではいかないという事をきちんと描写している。アニメ作品に対しては、あまり使わない言葉かもしれないが、最後まで「信頼できる」作品であると私は思う。刺さる人には刺さるのではないだろうか。

考える宿題を出された気分

そして、この作品の大きな題材である〝人の心を動かすモノ作り〟とは何だろうか。私自身がアイドルという仕事をしているからこそ無視できない言葉だった。自分の行動で誰かの心を動かすなんて、そんなことできるのだろうか。ましてや、今までできていたのだろうか。疑問と不安が積み重なる。後々まで自問させられる考える宿題を出された気分になった。

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ライター
堀陽菜

堀陽菜

2003年3月5日、兵庫県生まれ。桜美林大学グローバルコミュミュニケーション学群中国語特別専修年。高校卒業までを関西で過ごし、大学入学と共に上京。22年3月よりガールズユニット「MerciMerci 」2期生として活動開始。
好きな映画は「すばらしき世界」「スピードレーサー」「ひとよ」。幼少期から兄の影響で色々な映画と出会い、映画鑑賞が趣味となる。特技は14年間続けた空手。

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