毎日映画コンクールは、1年間の優れた映画、活躍した映画人を広く顕彰する映画賞。終戦間もなく始まり、映画界を応援し続けている。第77回の受賞作・者が決まった。
![大藤信郎賞を受賞した湯浅政明監督=幾島健太郎撮影](https://images.microcms-assets.io/assets/d247fcc9b85b413caf66458586629de0/b37f7a8b1a1c4d148d6f59b9cef30e6e/%E7%AC%AC77%E5%9B%9E%E6%AF%8E%E6%97%A5%E6%98%A0%E7%94%BB%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%AB%E5%A4%A7%E8%97%A4%E4%BF%A1%E9%83%8E%E8%B3%9E%E6%B9%AF%E6%B5%85%E6%94%BF%E6%98%8E%EF%BC%9D%E5%B9%BE%E5%B3%B6%E5%81%A5%E5%A4%AA%E9%83%8E%E6%92%AE%E5%BD%B1.jpg)
大藤信郎賞を受賞した湯浅政明監督=幾島健太郎撮影
2023.2.02
「犬王」で3度目大藤信郎賞 湯浅政明「表現の飛躍、進化させたい」:第77回毎日映画コンクール
第59回「マインド・ゲーム」、第72回「夜明け告げるルーのうた」に続き、3度目の大藤信郎賞。「光栄です」。続けて、大藤の代表作「くじら」を引き合いに出して、「ちょっとつながるところがあるのかな」。確かに、「犬王」のコンサート場面に巨大なくじらが登場するし、「夜明け告げるルーのうた」は人魚の物語で、「くじら」にも人魚が登場していた。
大藤信郎賞は日本の実験アニメの先駆者、大藤信郎(1900~61年)の遺族から寄託され、優れた実験アニメを顕彰するため第17回毎日映コンから設けられた。その後アニメの社会的認知が進み、第44回でアニメーション映画賞を新設。現在は実験性、芸術性の観点から大藤信郎賞を、総合的な評価としてアニメーション映画賞を選んでいる。
商業映画の枠組みの中にありながら一作ごとに独創的な表現を試みる湯浅監督の創作姿勢は、選考でも大藤と通じていると評価された。「特に芸術的な作品を作ろうという意識はないんです。ただ、アニメの必然性があるように、新しいことをやろうという感じはいつもあります。歩き方一つでも、いろんなやり方がある。形式に収まらず、止まらずに進化していこうと考えています」
文字で表現できないことを
「犬王」は、古川日出男の小説「平家物語 犬王の巻」が原作。室町時代を舞台に、醜い姿に生まれた能楽師・犬王と盲目の琵琶法師・友魚が出会い、新しい芸能を創造して都の寵児(ちょうじ)となっていく。
ここ数年の「集大成」という。「これまで、ファンの好みに寄せようと考えたんですけど、今回は見せたいものを見せるという初期の気分も合わせて作りました。歌って踊る能楽がメイン。小説では表現できない部分を前面に出すべきだろうと、音楽的シーンをたっぷり盛り込んだ」
©2021 “INU-OH” Film Partners
室町時代のポップスター、犬王と友魚
犬王と友魚は、激しいリズムと音響、ダンスのパフォーマンスで都の民衆を熱狂させる。大友良英のロック調の音楽と、ダイナミックな動きや色彩が一体となって、スタジアムのコンサートのよう。「室町時代のポップスターを、現代に描きたかった」。当初は当時の楽器での演奏を考えていたが、映画ではエレキギターが響き渡る。
大友から「先にダンスや弾き方などステージングが見たい」と求められ、急いで絵を作って見せると「これならエレキを使ったバンドでいいと。そこで方向性が見えました」。室町時代にはあり得ないステージができあがった。しかし全く荒唐無稽(むけい)でもない。
「同じようなことしてたら面白いな、と。あったであろうことを、できそうな形で」。調べた上で自由な発想を加えていった。「当時の人には、このぐらいでっかく聞こえただろう、光って見えただろうと、デフォルメして、派手で大きい感じにしたかった」
「時代感覚の〝ズレ〟を表現したかった」という。「時代の傾向はあっても、一人一人が考えつくことは、当時も今もそんなに違わないのではないか」。革新的とされるジミ・ヘンドリックスの曲芸のような演奏法も、彼の発明ではないと強調する。
「彼の何十年も前にそれを売りにしたギタリストがいたし、古代の壁画に、琵琶を同じ格好で弾いてる人が描かれていたりする。ジミヘンだけじゃなくて、ああいう楽器があれば、頭の後ろで弾きたくなるものだと。そんなことも、歴史物を作る上で描きたいことでした」
全天周で3Dアニメ!
大胆なデフォルメは、湯浅アニメの持ち味だ。「『犬王』では抑え気味だった」というが、コンサートが盛り上がるにつれて画面も伸縮する。「表現するのは、気分。飛躍させたい」と話す。「実写は客観で描くしかないけれど、アニメは感覚。文章で表現してないもの、感覚的なものを絵にしてみようと」
これからは「新しい媒体も考えたい」。ゲームやtiktok、ドーム型スクリーンに映像を映し出す全天周映画。「そこに3Dでアニメもありだと思うし、ストーリーを語れないかな」。ますます大藤賞的な開拓者精神ですね。「毎日映コンのアニメーション賞も、とりたいんですよ」。むしろ大藤信郎賞とアニメーション賞、アニメと実写、境界を越えたい。「大藤さんのアニメーションも、映画の一つとして見られていますよね。アニメか実写か、劇場で見ている人が気にならないような作品ができればいいと思います」
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