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2024.10.31
坂口健太郎がつむぐ文学的なせりふが切なくしみるラブストーリー「愛のあとにくるもの」
坂口健太郎が韓国ドラマに進出したことでも話題のラブストーリー「愛のあとにくるもの」(Amazon Prime Videoで配信中、全6話)は、日本人と韓国人による出会い、別れ、そして再会を、韓国の製作陣が描いた(以下、一部本編のネタバレがあります)。
韓国からの留学生と日本人の学生が東京で恋に落ちるが……
原作は、2005年に発表された、辻仁成と韓国の小説家コン・ジヨンによるコラボ小説。のちに作家となる日本人の大学生の青木潤吾と、日本に留学にやってきた韓国人のチェ・ホンによる恋の物語で、辻仁成が潤吾の視点、コン・ジヨンがホンの視点でそれぞれ描いた。
ドラマでは、韓国でも人気の坂口健太郎が潤吾役、「王になった男」「赤い袖先」などで知られる韓国の人気俳優イ・セヨンがホン役を務め、映画「ハナ 奇跡の46日間」のムン・ヒョンソンが監督を担った。
未来に希望と不安を抱きながら日本にやってきたホンは、到着したその日に、小説家を夢見る潤吾と出会う。バイトの応募先での再会など偶然が重なった2人は、お互いを意識するようになり、瞬く間に恋に落ちるが、しあわせな日々は永遠には続かず。まぶしいほどまっすぐに強くひかれあった潤吾とホンが、なぜ別れることになってしまったのか。日本でのできごとと、5年後の韓国での物語が交互に展開され、少しずつ過去が明らかになっていく。
ホンとの別れを悔やみ続ける潤吾は、彼女との恋を小説にするほど。その本の宣伝活動のため韓国を訪れ、5年ぶりにホンと再会。当時といまの気持ちを彼女に伝えようとするが、ホンにはすでに婚約者がいた。忘れられない運命の恋を経た2人の心が、静かに火をともしはじめる。
学生時代の潤吾は、ある意味残酷だ。異国の地で一人で生きるホンにとって、潤吾は彼女のすべて。でも、潤吾は生活のためにバイトざんまいで余裕がなく、彼女を支えるには未熟すぎた。結婚式のエピソードも恋人としてどうなのかと思わざるを得ない言動で、ホンが離れたのもうなずけると感じる人は少なくないだろう。
そんな批判を受けかねない役柄だが、坂口健太郎は後悔に満ちた潤吾を飾ることなく自然体で演じ、複雑な心の葛藤をうまく表現している。ホンが潤吾の魅力から抜け出せないのも、坂口健太郎がまとう空気ややさしい笑顔によって納得させられてしまう。
ホン役のイ・セヨンは、全編にわたり日本語でのセリフに挑戦。日本語で天真爛漫(らんまん)に潤吾に愛を伝える姿は愛らしく、孤独を訴える場面は心に込み上げるものがあった。婚約者には残酷なまでに素直な気持ちを伝えるのに、潤吾には気持ちを隠そうとする、その揺れる心がいじらしかった。さらに、劇中で心に響く美しい歌声を披露しており、その多才さに舌を巻く。
韓国の製作陣が映し出したフォトジェニックな東京、京都も見どころ
坂口健太郎とイ・セヨンは、相性の良さもあり、ただたたずむだけで絵になる。また、日本で撮影されたシーンが多く、東京都内や京都の街並みの美しさにあらためて気づかされた。井の頭恩賜公園をはじめ、高円寺や吉祥寺、赤羽など、韓国の製作陣から見た日本という視点も新鮮だった。ほかにも、潤吾が体を張って車を止めるシーンなど、坂口健太郎が〝韓ドラに出演している〟と感じさせる場面もあり印象的だった。
それにしても、小説が原作で、小説家の潤吾と、出版社で働くホンがつむぐ言葉は詩的で美しく、あまりに〝文学的〟だった。潤吾とホンは心の内で考えすぎるがゆえに、セリフと表情からそれぞれの感情を読み解き反すうする面白さがあった。一方で、感情が読みづらく目にみえる喜怒哀楽の振り幅が少ないのは、好みがわかれるところかもしれない。
「愛のあとにくるもの」はAmazon Prime Videoにて独占配信中