「The 8 Show ~極限のマネーショー~」より © 2024 Netflix,Inc.

「The 8 Show ~極限のマネーショー~」より © 2024 Netflix,Inc.

2024.6.03

「イカゲーム」以上に韓国の格差社会をむき出しにした「The 8 Show ~極限のマネーショー~」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、村山章、大野友嘉子、梅山富美子の4人です。

大野友嘉子

大野友嘉子

韓国ドラマ「The 8 Show ~極限のマネーショー~」がNetflixで配信されている。謎の「マネーゲーム」に招待された8人の男女が、8階建ての部屋がある建物に閉じ込められる。建物の中で過ごした時間の分だけ賞金を得られるというゲームに参加する。
 


8人の男女が8階建ての建物に閉じ込められ、ゲームに参加

主人公のジンス(リュ・ジュンヨル)は投資詐欺に遭い、借金取りに追われている。川に身を投げようとしたところ、どういうわけかゲームへの招待メールが届く。他の7人も、お金に困っているようだということが徐々に明らかになる。
 
8階の建物には各階に1室ある。参加者は参加時に数字が書かれたカードを選ぶ。カードの数字は自分が過ごす部屋の階数だということが後から分かる。建物の前には共有広場があり、決まった時間だけそこに出られる。
 
ジンスが選んだのは3階の部屋。殺風景なワンルームでトイレも風呂もない。ただし、何もしなくても1分ごとに3万ウォンが加算される。必要な物は購入できるが、物価は外の世界の100倍。高額物品で賞金がパーにならないよう、取捨選択しながら必要な物をそろえていく。
 

社会の縮図を見せつけられる

「イカゲーム」を彷彿(ほうふつ)とさせるドラマだ。生活に困窮した人々が一獲千金をかけてゲームに挑むという設定はかなり既視感がある。貧富の差を描いている点も、今や韓国ドラマのお決まり。真正面から取り上げるだけでは芸がないような……。
 
しかし、である。確かに金太郎あめ的なテーマなのだが、「イカゲーム」以上に格差社会の本質に踏み込んでおり、社会の縮図がまざまざと見せつけられ、思いのほか見応え十分だった。不公平な社会ができあがる過程そのものを描いているのが面白い。
 
「イカゲーム」のようにデスゲームに強制的に参加させられることはない。むしろ誰かが死んだらゲームオーバーになる。これ以外はルールがあるようでこれといってなく、それが逆に謎めいていてスリリングだ。建物の中にいるだけでお金がもらえるなんて、いくらなんでも甘すぎる。裏があるはずだ。誰だってそう思う。それでもワケありの参加者たち。1分でも長くとどまろうと、試行錯誤する。
 
次第に、部屋ごとに与えられた条件が違うことが明らかになる。分数ごとにもらえる金額、部屋の広さとスペックは上層階にいくほど良かった。さらに、毎日配給される弁当と水は最上階の参加者が昇降機で下ろすことになっていることも分かる。つまり最上階の意向一つで、下の階の住人たちが食べ物にありつけるかどうかが決まるわけだ。この事実が判明すると、8人の力関係が一気に決まる。
 

ゲームに参加する8人の役者たちの演技も見もの

8人が作る小さな「社会」がこのドラマの肝だ。故に、それぞれのキャラクターの描写が何よりも重要になってくる。役者たちの腕が光る作品といえる。
 
何をやらせてもダメダメなジンス。自分のことで精いっぱいのはずなのに、弱きを助けようともする。それがかえって混乱を引き起こすことが多いのだが、要領が悪いながら善良なジンスがかなしくもいとおしい。
 
「4階さん」の女性(イ・ヨルム)はジンスと同様にこれといってスキルがないが故に、風に柳のごとく生き延びようとする。視聴者は彼女のことを軽蔑しつつ、どこか自分を見ているような気持ちになるのではないか。
 
「2階さん」の女性(イ・ジュヨン)は腕っぷしが強く、ぶっきらぼう。曲がったことが大嫌いで、正義感が強く、心優しく、このドラマのヒーロー的な存在だ。決して頭が悪いわけではないのに、とことん運に見放されている。選んだ部屋も時給が下から2番目に低い低層階。
 
同じく優しい「5階さん」の女性は、生活に支障をきたすほどの傷を心に負っているようだ。他者への過度な思いやりを利用され、とんでもないことをしでかす。
 
最下層に住むのは、足に障害を持つ「1階さん」の男性(ペ・ソンウ)。足が悪いので階段を上らなくていいように、1階を選んだのかもしれない。ゲームに参加した経緯も含め、最も同情するべきキャラクターだ。
 
これら「負け組」のジンスたちに対して、最初の部屋決めで上層階(時給が高い)を当てた強運者や、頭脳や腕力に恵まれた「勝ち組」グループができる。7階の頭脳派・フィリップ(パク・ジョンミン)、肉体派の「6階さん」の男性(パク・へジュン)は、いわば「スキル」の持ち主。現実社会では苦戦していても、小さなコミュニティーでは力を発揮できた。
 
ヒエラルキーの頂点に君臨するのは、8階の部屋を当てたセラ(チョン・ウヒ)。愛らしい見た目とは裏腹に、残忍な性格をしている。ドラマ終盤は彼女の狂気が炸裂(さくれつ)し、グロテスクなゲームが展開される。チョン・ウヒの演技は見物だ。
 

資本主義社会の負の側面がむき出しに

ネタバレになるため、建物の中にとどまるためのカラクリは明かさないでおく。一つ言えるのは、富む者は更に富み、貧しき者は富める者のために働かされるという構図が分かりやすく描かれているということだ。
 
下の階の人たちも一応は収入があるけれども、元々の時給が違うため上階の人たちとの差は半永久的に埋まらない。それでも建物の中にいたければ、上階のいうことを聞かなければならない。運にも才覚にも恵まれない者は、生かさず殺さずの状態が続く。資本主義社会の負の側面がむき出しになっている。
 
「ヘル朝鮮」という言葉がある。韓国の若者の間で使われてきた言葉だ。ヘル(Hell)とは、地獄のこと。苛烈な受験競争、就職難、高い失業率……。韓国の若者を取り巻く環境は厳しい。金持ちの家に生まれたというラッキーな境遇にでもなければ、いばらの道を歩むことになる。まるで地獄のような社会だ、という意味。
 
金のスプーンをくわえて生まれてきたか、あるいは泥のスプーンなのかでその後の人生が天国と地獄に分かれるという「スプーン階級論」からも見て取れるように、韓国では親の財力やコネがモノをいう世の中を嘆く声が根強い。本作、「イカゲーム」、映画「パラサイト 半地下の家族」をはじめ、格差を取り上げたコンテンツがこうも多いのは、韓国の若者や社会の意識を捉えているからだ。
 
「The 8 Show ~極限のマネーショー~」はNetflixで独占配信中

ライター
大野友嘉子

大野友嘉子

おおの・ゆかこ 毎日新聞くらし科学環境部記者。2009年に入社し、津支局や中部報道センターなどを経て現職。へそ曲がりな性格だと言われるが、「愛の不時着」とBTSにハマる。尊敬する人は太田光とキング牧師。ツイッター(@yukako_ohno)でたまにつぶやいている。
 

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