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2024.10.18
坂口健太郎×イ・セヨン「愛のあとにくるもの」で史上初?の挑戦
いま、坂口健太郎がアツい。Amazonプライム・ビデオで配信中のドラマ「愛のあとにくるもの」で、「宮廷女官チャングムの誓い」「赤い袖先」などで知られる韓国の人気俳優、イ・セヨンとダブル主演。Netflixで11月に配信が始まる「さよならのつづき」でも有村架純と共演している。日本のみならず韓国でも人気抜群だ。
「愛のあとにくるもの」は、韓国の動画配信サービス、クーパンプレイのオリジナル。日韓両国を舞台に紡がれるラブストーリーだ。坂口は韓国ドラマの日本版「シグナル 長期未解決事件捜査班」で主演しているが、韓国製作のドラマ出演は初めてという。日韓の俳優や製作陣がタッグを組んだドラマは昨今珍しくないが、今作の坂口は〝史上初〟に挑んでいる。
「愛のあとにくるもの」© 2024 Coupang Play All Rights Reserved
韓国人留学生と日本人男性、偶然の出会い重ね……
ドラマは全6話。第1、2話のあらすじはこうだ。チェ・ホン(イ・セヨン)は日本に留学すると決意し、東京・吉祥寺で暮らし始める。子供の頃に日本で過ごしており、それなりに日本語が話せたのも、彼女が海を渡ってきた理由の一つのようだ。京王井の頭線の「井の頭公園駅」で、大きな荷物が挟まって改札が通れず困っていると、通りかかった青木潤吾(坂口健太郎)に助けられる。お礼を言って別れたが、後日にアルバイト募集の張り紙があったラーメン店の前で、潤吾と再会する。彼も同じくアルバイトを探しており、店長の「入団テスト」(1日だけ店で働かせてみる)の結果、ホンだけが採用された。
潤吾は、ラーメン店の近くで出店するキッチンカーで働くことに。2人は段々と、お互いの存在を意識し合うようになる。ホンが井の頭公園をジョギングしていると、そこでも潤吾とばったり出会った。偶然ではなく、潤吾はホンが「いつも井の頭公園を走っている」と言ったのを覚えていて、彼女を待っていたという。かくして2人の恋が始まるが……。
ところがホンは、部屋に手紙を残し、潤吾のもとから突然消えてしまう。それから5年。ホンは韓国で、出版社の室長という責任ある立場に就いていた。ある日、来韓する「佐々江光」という日本の人気作家の通訳を頼まれる。空港で到着を待っていると「佐々江先生」は、ホンと出会ったころから抱いていた作家の夢を実現させた、潤吾だった。ホンは気まずい雰囲気のまま仕事を終え、そそくさと彼のもとを去ろうとするが、潤吾は、ホンが運転する車の前に立ちはだかり……。第3話以降の続きが気になる。
「男性=日本、女性=韓国」
さて、冒頭で触れた、坂口の〝史上初〟とは何か。今夏に刊行され、韓国カルチャーに詳しい翻訳家やコラムニストらが著者に名を連ねる「韓流ブーム」(ハヤカワ新書)には、こんな記述がある。日韓のカップルが登場するドラマや映画は、これまで「男性が韓国人、女性が日本人」という組み合わせが多かった。しかし今は「男性が日本人、女性が韓国人」というパターンが増えつつあるのだという。同書では、後者の例としてちょうど「愛のあとにくるもの」が紹介されている。
これも同書にあるが、前者(男性=韓国人、女性=日本人)の例は、ウォンビンと深田恭子が出演したドラマ「friends」(2002年)、イ・ジュンギと宮崎あおいが出演した映画「初雪の恋 ヴァージン・スノー」(07年)など。今年の初めにも、二階堂ふみとチェ・ジョンヒョプが共演する連ドラ「Eye Love You」がTBS系で放送され、人気を集めたのは記憶に新しい。
努力感じるイ・セヨンの完璧日本語
私(記者)は「冬のソナタ」の頃から、韓国ドラマや日韓のチームが製作したドラマに触れてきた世代だ。それでも、後者(男性=日本人、女性=韓国人)の例はすぐに思い浮かばない。少なくとも坂口のような、日本でトップ級の人気がある俳優が主演する作品は、過去にないのではないか。
「冬ソナ」の頃とは違い、動画配信サービスが普及して作品の数が増え、ジャンルも多様化している。今後は小栗旬とハン・ヒョジュ(出演作に映画「ビューティー・インサイド」、ドラマ「トンイ」「ムービング」など)が共演するドラマ「ロマンチックアノニマス」も25年にNetflixで配信予定と、新たな〝鉱脈〟が開拓されるかもしれない。
また、「愛のあとにくるもの」のイ・セヨンは、日本語のせりふがとても自然だ。1話目は潤吾と出会って間もない頃が、2話目は恋人として時を重ねた頃が描かれているが、後者のほうが(セリフとはいえ)より難しい表現を使いこなしていて、発音もさらになめらかに聞こえる。ホンが「日本に長く住んで、日本語を覚えていった」という設定に基づいているのか、セヨン本人が撮影を重ねる中で上達したのか。たぶん、その両方だろう。映像の舞台裏で俳優が重ねている努力は、すごいなと感じた。
「井の頭公園」「ヨルトン公園」聖地化するかも
さて、配信開始前の9月、東京都内で記者会見があり、坂口健太郎とイ・セヨン、ムン・ヒョンソン監督が登壇した。セヨンは日本語で「こんにちはー。ホン役を演じましたイ・セヨンです。たくさん緊張しています。また日本に来られてうれしいです」とあいさつ。時を経ても変わらない愛があるのか、が今作を貫くテーマだが、自らは「変わらない愛があると、信じます」とこれまた日本語で答えていた。
日本語で好きな言葉を尋ねられ、「アイタイ」とフリップに記入。いつも共演者や現場のスタッフと「会いたい」と思っていたほか、「あい」は挨拶(あいさつ)のあい、「愛」と同じ発音である点が気に入っているそう。思い返すと、セヨンが笑顔で話していた姿は、劇中のホンのキャラクターに重なっていた気がする。
一方の坂口は。「日本と韓国、それぞれの強い思いがエネルギーになって組み合わせられ、できた作品です。登場人物どうしで、いろんな愛が動いている。その(愛が動く)瞬間を、皆さんには見届けていただければ、とてもうれしいです」。また、ソウルの「ヨルトン公園」での撮影が印象に残っているとか。韓国でも「愛のあとにくるもの」はヒットしているそうで、井の頭公園とともに日韓の「聖地」となるかもしれない。