「恋愛バトルロワイヤル」

「恋愛バトルロワイヤル」Netflix

2024.9.29

<ネタバレあり>「恋愛バトルロワイヤル」校則なんかじゃ止められない恋心 大人と戦う高校生へのエール

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、大野友嘉子、梅山富美子の3人に加え、各ジャンルの精鋭たちが不定期で寄稿します。

山田あゆみ

山田あゆみ

Netflixオリジナルドラマシリーズ「恋愛バトルロワイヤル」は、「男女交際禁止校則」が制定された高校の、生徒と学校の戦いを描く学園ドラマ。見上愛ら注目の若手俳優が顔をそろえ、恋愛をめぐるさまざまな側面をあぶり出す。高校生のパワーに30代女性ライターが付いていくのは正直大変なところもあったものの、無鉄砲な10代の恋愛の、やむにやまれぬ衝動を思い出したのだった。


エリート高校に導入された「恋愛禁止校則」

主人公はエリート校である明日蘭学院に通う高校2年生の有沢唯千花。借金を残した夫の代わりにあくせく働く母親のために、無事卒業して将来は安泰なキャリアを築くことを目指していた。そんなある日、明日蘭学院は男子校と合併するとともに「男女交際禁止」の校則が制定される。男女の接触は禁じられ、性交渉を行ったと判明した場合には退学処分となる厳しい内容だ。唯千花が所属する生徒会を中心に、「ウサギ狩り」と呼ばれる生徒への学校内外での監視が行われる、異様な状態となってしまう。

渋々ウサギ狩りに加わった唯千花だったが、親友の恵麻が「校則違反」で退学したことをきっかけに、卒業するために手段を選ばないと決めて、お金と引き換えに生徒たちの恋愛の証拠写真をもみ消す「ラブキーパー(ラブキ)」として秘密裏に活動し始める。全8話のエピソードで、唯千花をとりまく生徒たちの恋愛模様が描かれる。幼なじみへの恋に破れた反動でウサギ狩りを先導する藤野紗和。母親の不倫がトラウマとなり、恋心をうまくあらわせずにいる神田篤史。スクールカウンセラーの篠田有希に恋い焦がれる生徒の美山飛鳥。男子生徒同士がキスしているところを写真に撮られ、校内に張り出されるが、学校側は校則違反とみなさずスルーするエピソードも。


ドラマの要は女性キャラ

ストーリーの軸の一つは、唯千花と、裕福な家庭ながら父の暴力から母を救い自由になるためにお金が必要でラブキとなった陵悟の恋愛だ。はじめは2人ともお金のためにラブキとして活動するものの、やむにやまれぬ恋愛の衝動は誰にも止められないと気づいてゆく。唯千花は陵悟と徐々に心の距離を縮め、やがて校則の是非を問う裁判に打って出る。

唯千花を含め、女性キャラクターがドラマの要となっている。特にスクールカウンセラーの篠田が重要な役割を担っていた。高圧的な陵悟の父親に対して「そろそろ感覚をアップデートした方がいいですよ」と告げ、形式にとらわれて結婚を推し進めようとする婚約者をすっぱりと振り、毅然(きぜん)とした態度を見せる。一見冷徹な校長は学生のころ、女性ならではの悲劇により幼なじみを失った後悔にとらわれていた。退学した恵麻は、1人で生きることを決意する。

見上愛、宮世琉弥……若手注目株

ずらりと顔をそろえた人気上昇必至の俳優陣にも注目だ。唯千花を演じるのは、〝次〟に来るのが確実な若手、見上愛。NHK大河ドラマ「光る君へ」にも出演し、映画「不死身ラヴァーズ」では主演を務めた。みずみずしく恋に翻弄(ほんろう)される唯千花の姿は、今作の魅力を際立たせている。

唯千花と運命的に出会う陵悟役には、宮世琉弥。映画「おいハンサム‼」に出演し、10月1日からは、主演のテレビドラマ「スノードロップの初恋」(フジテレビ系、火曜午後11時)の放送が始まる。スクールカウンセラーの篠田有希役に、エミー賞受賞のドラマシリーズ「SHOGUN 将軍」の穂志もえか。


明日を生きる若者たちへ

さてここからは、はるか昔に高校生だった30代ライターの独り言。女性のキャラクターが、強く賢く描かれるのと対照的に、男性はクズばかり。婚約者がいながら女生徒と関係を持った教師や、妻に暴力をふるい差別的な態度を見せた陵悟の父親など、同情の余地もない。女性のエンパワーメント作品によく見られる構図で、どちらかを下げた方が対照が際立つのは分かるが、もうちょっとしっかりしてほしい。

ピュアだからこそ危なっかしい10代の恋愛には、ヒヤヒヤさせられた。大人の目線からは、現実は「恋はすてき」という感情論だけじゃすまない、リスクをきちんと知るべきだと言いたくなる。とはいえクライマックスで、校長に直談判に及んだ生徒たちが、口々に「他にしたいことがあるから恋愛に興味はない。でも、したい人を禁止するのは間違っている」「恋愛する気はないけど、学校に決められたくない」と訴えるのもよく分かった。

高校生にだって、大人が勝手に作った校則に異議を唱え、当事者である自分の主張を発信する自由があるはずだ。生徒たちが独自にルールを決めたら、校内に波乱を起こし、破滅するかもしれない。それでもそこから、たくましくサバイブすればいい。そんな物語の続きを想像したのだった。

ライター
山田あゆみ

山田あゆみ

やまだ・あゆみ 1988年長崎県出身。2011年関西大政策創造学部卒業。18年からサンドシアター代表として、東京都中野区を拠点に映画と食をテーマにした映画イベントを開催。「カランコエの花」「フランシス・ハ」などを上映。映画サイトCinemarcheにてコラム「山田あゆみのあしたも映画日和」連載。好きな映画ジャンルはヒューマンドラマやラブロマンス映画。映画を見る楽しみや感動をたくさんの人と共有すべく、SNS等で精力的に情報発信中。

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