プチョン国際ファンタスティック映画祭NAFFのマネージングディレクター、トーマスㆍJㆍナム

プチョン国際ファンタスティック映画祭NAFFのマネージングディレクター、トーマスㆍJㆍナム写真提供: プチョン国際ファンタスティック映画祭

2024.7.23

筆者がこの目で見た純一無雑の映画人、 トーマスㆍJㆍナム――その情熱の源に迫る

国際交流基金が選んだ世界の映画7人の1人である洪氏。海外で日本映画の普及に精力的に活動している同氏に、「芸術性と商業性が調和した世界中の新しい日本映画」のために、日本の映画界が取り組むべき行動を提案してもらいます。

洪相鉉

洪相鉉

「労働そのものを生の目的として、一生懸命働くこと自体が究極の人間らしさと見ることこそ、石田梅岩という江戸時代の大思想家の教えに象徴される日本人の力ではないでしょうか」
 
勤勉と誠実を最大の武器として経済大国を成してきた日本人の力を説明しながら、上記のような内容に言及したことがある。東大留学時代の恩師、市野川容孝の社会学のゼミだった。特に反論が出なかったことを思い出してみると、筆者の意見が間違っていたわけではなかっただろう。「ラスト サムライ」でも捕虜になったが、後で勝元の友人になるネイサンㆍオールグレンの描写にも、朝起きた瞬間から一日中働く日本人の姿が描かれているではないか。
 
筆者の主張が間違っていなかったということは、「日本映画の伝道師」として2018年7月から役員として在職するメディアを移し、今年7月8日まで計142回の映画祭に出品された日本映画関係者のインタビューを行う中で証明された。たった一度の遅刻や約束違反もない人々、コロナ禍での非対面インタビューを進めても、一度の連絡で全てのことが順調に進んだ。結局、映画ジャーナリストから評論家へ、国際交流基金をはじめとする公共機関や各映画会社のお世話になり、37年の長い歴史を持つ高崎映画祭のシニアプロデューサーを経て、不動産と総合建設がメインの目黒区所在の会社の映画事業本部長という日本映画人の一人として成長してきたことは、世界一の働き手、信用できる日本人からの裏付けがあったわけだ。


2024年幻想映画学校の参加者と共に

地位に甘えず、熱意を持って世界中の映画人をつなぎ続けるトーマス

さて、今回記事を書くことになったのは、このような尊敬できる美徳にふさわしい人を海外でも発見したからである。それはアメリカに住んでいた頃、筆者と同じ英語名を使っているコリアンアメリカンのプチョン国際ファンタスティック映画祭(以下「BIFAN」)産業プログラムの首長、アジアファンタスティック映画制作ネットワーク(Network of Asian Fantastic Films、NAFF)のマネージングディレクター、トーマスㆍJㆍナムという男である(英語圏映画担当プログラマーも兼任)。彼との最初の縁は、キム・ボンソク元アジア映画担当プログラマーのアドバイザーとしてBIFANとの縁を結んだ2016年まで遡(さかのぼ)る。いつも忙しくてゆっくり会話をすることさえ難しかった彼の活躍ぶりを聞いたのは、韓国の国際映画祭に関心を持っていた海外の人々からだった。「韓国の国際映画祭の関係者=トーマス」という等式。
 
それも無理はない。彼は映画映像分野の名門であるメリーランド大学カレッジパーク校を卒業し、釜山国際映画祭で今のACFM(Asian Contents & Film Market)の前身である釜山プロモーションプランを運営していたが、韓相俊(ハンㆍサンジュン)執行委員長(現在、韓国映画振興委員会委員長)の要請でBIFANに赴任し、2008年に始まった世界初のジャンル映画産業プログラムの共同設立者として17年間430編のプロジェクトを選定し、ビジネスチャンスを提供、幻想映画学校を通じて370人の映画人を養成し、世界ジャンル映画産業の潮流の形成に一役買っていたからだ。

よく考えると、これほどの業績を持った人物なら、所得顔に暇さえあれば自分の業績を広報してきたはずだが、筆者は彼が自分の業績について話していたところを見たことがない。「お金をもらった分だけ働け」と熱心に仕事をする彼の姿をむしろ威嚇と感じた窓際族に皮肉られながらも黙々と仕事をしている姿を見ただけだ。だからといって彼の人間関係に問題があったのかというと、それは全く違う。「アメリカン・ヒストリーX」の脚本家、デイビッドㆍマッケンナ、「ソサエティー」のブライアンㆍユズナ監督、「ヘレディタリー/継承」のアリㆍアスター監督、「ワルキューレ」「スーパーマン リターンズ」のプロデューサー、クリスㆍリーなど錚々(そうそう)たる巨匠が富川を訪れたのは、地球を働き場として奮闘しながら作ってきた彼のネットワークのおかげだったからだ。ハリウッドとアジア映画の懸け橋の役割をする彼に社交性がないはずがない。筆者に北欧のネットワークのノルディックㆍジャンルㆍインベイジョン、南米のブラッドㆍウィンドウ、欧州のシッチェスㆍファンピッチやカンヌㆍファンタスティック7などの関係者らと会う機会を提供したのも彼だった。


▲「Push-button Syndrome」でNAFFアジアの発見賞を受賞した村上り子監督(中)と藤田可奈子プロデューサー(左)
 

作品規模は不問! トーマスが日本をサポートしてくれた映画祭の数々

しかし、一緒にアメリカで成長期を過ごしたアジア人同士、しかも日本映画人として彼を応援するようになった理由は別にある。慣例的に映画祭の事務局が行うゲストトークの回数(最大2回)を超え、監督(「ダイナマイトㆍソウルㆍバンビ」の松本卓也)の希望で進行されたゲストトークが終わった時、自分の業務を終えて映画を見に来たトーマスが、彼らの歓送迎会を自費でおごる(薄給で有名なBIFANだが、彼はいつも自費で海外ゲストをもてなす)ことからもわかるように、彼はインディーとメジャーを問わない日本映画の最も心強いメンターだからだ。甚だしくは英語圏映画担当プログラマーとして、「日本映画オタク」出身のアメリカ人監督エリックㆍマキーバーの作品「イケボーイズ」を招待し、出品履歴のある日本のインディーズ映画人に教育プログラムである幻想映画学校への参加を勧めるなど、彼の全方位的な支援は見ている筆者さえも胸が熱くなるほどだ。

今は日本アカデミー賞に輝くほどの重鎮になった石川慶がまだ無名だった2013年、NAFFでプチョン賞を受賞した時にそばにいたのも彼であり、釜山国際映画祭の開幕作として東京国際映画祭にまで招請された「オルジャスの白い馬」の竹葉リサが、国際舞台でデビューできるように力になってくれたのも彼だった。それだけではない。今年も通話をするのにも一日以上も待たなければならないほど、小さな事務所が担当すべき殺人的な業務量で健康まで害しながらも投資対象作品を探すためにNAFFを訪問した筆者に、VIPO経由の「BAIT」や「Push-button Syndrome」等の日本映画企画について案内してくれた。今年のNAFFが終わった後のインタビューで、筆者が「どうしてそこまで大きな好意を与えることができるのか」と理由を尋ねると、彼の答えは極めて謙虚で簡明だった。「達成できる目標でなければ、始めるなという親の教えを覚えていただけです」


NAFF ITプロジェクト プレゼンの様子
 

日本映画人として、彼の存在そのものを誇りに思う

この記事で言及したほとんどの内容は、今まで筆者が直接目撃したものであり、彼が話したことではない。今年は筆者もひとシネマの一員として訪問する予定のTIFFCOMでトーマスに会えることを期待していたが、悲しいことに彼は他のところに出張に行くことになりそうだという。とにかく新しい時代の流れに応えて、ニューメディアとしてのAIとVRを活用した作品と映像配信のシリーズ、IPまで範囲を広げた多様なプロジェクトとジャンルとしての怪談関連プログラムを含む教育および実習プログラムなどへの挑戦を勧めるトーマスの情熱は、文面で説明できないほどだった。

「また会えますよね?」「もちろんです。 来年もお会いしましょう」感動のインタビューを終えて挨拶(あいさつ)をする筆者に、再びゲストトークのために上映館に向かおうとしていた彼がほほ笑んで答えた。今回の映画祭のために、手当も出ない徹夜勤務をどれほどしたのだろうか。日本映画人として、そして仲間として言えなかったが、いつも心の中にあったお礼を今になって言う。

「Thank you for bringing us to a new world, my dear Thomas.(親愛なるトーマス、私たち日本映画人を新しい世界へ導いてくれてありがとう)」

写真提供: プチョン国際ファンタスティック映画祭

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ライター
洪相鉉

洪相鉉

ほん・さんひょん 韓国映画専門ウェブメディア「CoAR」運営委員。全州国際映画祭ㆍ富川国際ファンタスティック映画祭アドバイザー、高崎映画祭シニアプロデューサー。TBS主催DigCon6 Asia審査員。政治学と映像芸術学の修士学位を持ち、東京大留学。パリ経済学校と共同プロジェクトを行った清水研究室所属。「CoAR」で連載中の日本映画人インタビューは韓国トップクラスの人気を誇る。

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