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2024.4.03
〝推し〟が逮捕されたらどうするか? ファンたちの葛藤に迫った、韓国のドキュメンタリー映画「成功したオタク」
もしも〝推し〟が、性加害で逮捕されたら……ファンたちの複雑な気持ちに切り込んだ韓国のドキュメンタリー映画「成功したオタク」が公開中だ。
昨今、K-POPに限らずアイドルの人気はとどまることを知らない勢い。その人気を支えるのは、熱狂的なファンたち。誰かを応援することはこの上ない喜びではあるものの、推しがいることの楽しさと危うさは表裏一体。本作は、アイドルでなくても、人生で一度でも〝推し〟がいたことがある人であれば、心に深く刺さる内容となっている。
韓国の歌手、チョン・ジュニョンのファンだったオ・セヨン監督が同じ経験をしたファンにインタビュー
本作の監督は、韓国で歌手として活動していたチョン・ジュニョンの熱狂的なファンだった、オ・セヨン氏。ファンとしてテレビにも出演した経験があった監督は、本人にも認知されていた〝ソンドク(成功したオタク)〟。そんな「骨の髄までハマっていた」チョン・ジュニョンが、2019年、集団性暴行の容疑で実刑判決を受け、犯罪者となった。
成功したオタクから突然失敗したオタクとなり混乱した監督は、自身と同じような経験をした人たちがいることを知る。推しが問題を起こしたあと、ファンたちはどんな気持ちだったのか、どのような感情が生まれたのか、とインタビューを行う。
自身が罪を犯したわけではないけれど罪悪感にさいなまれてしまう人、ファンだった自身にガッカリしてしまう人、「一生刑務所から出てくるな」とキッパリと言い放つ人、そして、新たな推しができた人も。オタクだった監督だからこそ、ファンたちの素直な思いが引き出されていく。悲しみや怒り、消化しきれない心境を明かす彼女たちを裏切ったアイドルの罪は重い。
また、友人と行う〝グッズのお葬式〟では、夢中になって推し活をしていたころの思い出がよみがえる。いまとなっては「無用なもの」と言いつつも、処分するグッズを一つ一つ手に取り、楽しくて幸せだったころの記憶に浸る。当時、推しが憎い存在ではなかったからこそ、目を輝かせ生き生きと語る彼女たちを容易に否定することはできない。
ファンたちの困惑とファンを裏切ったアイドルの罪深さ
監督は、自分たちが被害者なのか、それとも加害者なのかと困惑し続ける。推しを調子に乗らせてしまったのではないか、危うい人物だと気づいていたかも、と。心を整理するため、俯瞰(ふかん)してものごとを捉えようとするのだが、元〝推し〟をかばうでもなく、自身をカメラに映して行き場のない感情を吐き出す様子がリアルだ。
アイドルを応援することは悪いことではない。むしろ生活に彩りが出て、活気に満ちあふれることもある。ただ、アイドルとしての活動しか知らない人に、全てをささげることのリスクはあるのだと思わざるを得ない。そして、これはアイドルに限ることではなく、表舞台に立つ人を信仰しすぎてしまうことへの警鐘にも感じる。
インタビューでは、永遠に尊敬できるのは亡くなった人だけ、とある一人のファンが回答する。生きている人だと何が起こるかわからないので永遠には尊敬できない、というのは皮肉めいているが、ファンとしてのつらい経験はもうこりごり、といったところだろう。
本作は、オタクやファンと呼ばれる人や、誰かに夢中になる人を嘲笑する内容ではない。楽しかった思い出、また新たな誰かを〝推す〟可能性も否定しないのも良い。
「成功したオタク」は全国順次公開中。