毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
![「靴ひものロンド」© Photo Gianni FioritoDesign Benjamin SeznecTROIKA ©2020 IBC Movie](https://images.microcms-assets.io/assets/d247fcc9b85b413caf66458586629de0/8dc048f620f54821945ade8ab6fe87e5/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E9%9D%B4%E3%81%B2%E3%82%82%E3%81%AE%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%83%89%C2%A9%20Photo%20Gianni%20FioritoDesign%20Benjamin%20SeznecTROIKA%20%C2%A92020%20IBC%20Movie.jpg)
「靴ひものロンド」© Photo Gianni FioritoDesign Benjamin SeznecTROIKA ©2020 IBC Movie
2022.9.09
靴ひものロンド
1980年代、イタリア・ナポリ。ラジオ番組のホストを務めるアルド(ルイジ・ロ・カーショ)、妻のバンダ(アルバ・ロルバケル)、娘と息子との穏やかな暮らしは、アルドが浮気を告白したことで崩壊する。父は家を出て愛人がいるローマへ移り、母の精神は不安定になるが、時を経て家族は再び一緒に暮らし始める。やがて夫婦が老齢を迎え、ある事件が起こる。
ぎゅっと締めたつもりがふいにほどけたり、ほどこうとしてもうまくいかなかったり。家族の結びつきは〝靴ひも〟のようで、タイトルの意味が何重にも浮かび上がる。生活のにおいを感じさせるインテリアや小物など、細部にわたる丁寧な作りもこの家族映画に真実味を与えた。過去と現在を巧みに行き来しながら、ときにミステリーのように引き込む物語を見て気になったのは、両親の不和に振り回された子供たちのこと。最後には悲しくも痛快なエンディングが待っている。ダニエーレ・ルケッティ監督。1時間40分。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(細)
ここに注目
夫婦の老後や子供たちのその後を活写した重層構造が、家族のゆがみや惰性をえぐり出す。夫婦のきしみのその先に、耐えがたい深刻さというより、解放感や人のおかしみを見せたルケッティ監督の人間観察の奥深さを称賛したい。ロルバケルらの演技も成熟度が高い。(鈴)