「ウェーコ事件:アメリカに訪れた終末の日」から。Courtesy of Netflix© 2023

「ウェーコ事件:アメリカに訪れた終末の日」から。Courtesy of Netflix© 2023

2023.4.10

「ウェーコ包囲」ドキュメンタリーに「シュミガドーン!」シーズン2、アナ・デ・アルマスのアクション新作も。期待の配信新作作品:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、大野友嘉子、梅山富美子の3人に加え、各ジャンルの精鋭たちが不定期で寄稿します。

村山章

村山章

「オンラインの森」筆者が持ち回りで、最新の配信作品の中から期待作・注目作をピックアップ。毎月10日に更新し、注目ポイントを解説します。ネクストブレークは、きっとここから!
 
 
Waco Tribune Herald/Courtesy of Netflix © 2023

「ウェーコ包囲」から30年。新たに公表の情報も交えた「ウェーコ事件:アメリカに訪れた終末の日」

 日本でもカルト教団についての話題は尽きることがないが、本作は1993年にテキサス州の田舎町ウェーコで起きた、キリスト教の終末論を信奉する「ブランチ・ダビディアン」なる教団の施設をFBI(米連邦捜査局)が包囲し、教団側が51日間立てこもった後、信者ら86人が死亡するという凄惨(せいさん)な結果に終わった「ウェーコ包囲」のドキュメンタリーだ。
 
過去にも何度かドキュメンタリーが作られていて、2018年にはテイラー・キッチュが教団のカリスマ指導者デビッド・コレシュを演じたドラマシリーズも製作されている。また事件について邦訳された書籍も出版されている。日本ではあまり知られていないかもしれないが、全米が注視した大事件だったのだ。
 
もともと筆者が興味を持ったのは、映画監督のハル・ハートリーが執筆した戯曲作品「SOON」が、この事件をモチーフにしていたから。ハートリーは自称「論理的な帰結としての無神論者」だが、この事件を〝世界の終末〟に魅せられた敬虔(けいけん)な人々がたどった悲劇と捉え、教団の起源である19世紀にまでさかのぼって、信仰とは、狂信とは何かを探ろうとした。
 
ちなみにメル・ギブソンが監督した戦争映画「ハクソー・リッジ」の主人公のモデルになったデズモンド・ドスは、ブランチ・ダビディアンが派生する元となったセブンスデー・アドベンチスト教会の信者で、同作をご覧になった人なら「武器を持たない志願兵」というドスの特殊な信念が、強い信仰にもとづいていたことを覚えているかもしれない。
 
同じ終末論から、人の命を救う英雄が生まれることもあれば、狂信者として老若男女が炎に包まれることもある。筆者はいかなる信仰心も持ち合わせていないが、だからこそ、この皮肉なめぐり合わせの正体を知ってみたい、という興味がある。
 
教団の指導者であるデビッド・コレシュが自分は救世主であると自称したり、大のロック好きで信者とハードロックバンドを組んでいたり、なにかと滑稽(こっけい)に見える部分も多い。ただこの事件自体は、多数の犠牲を出した原因がFBIら捜査当局の強引な姿勢や行動にあったのではないかと、権力の乱用の側面からも議論の的になってきた。
 
事件から30年、新たに公表された映像資料を踏まえた最新のドキュメンタリーということで、なにかしらの新事実が明かされるのではという期待もあるが、謎がきれいサッパリ解決するなんてことはないだろう。ただ日本で見られる三つのドキュメンタリーの中では最大のボリュームでもあり、現時点での総決算のような作品になることを期待している。
 
「ウェーコ事件:アメリカに訪れた終末の日」 Netflix 配信中

 
画像提供 Apple TV+ 

ヒットしたミュージカルシリーズが再び!「シュミガドーン!」シーズン2

 一昨年にAppleTV+で配信された、ミュージカルシリーズのシーズン2がやってきた。ミュージカルといっても多分にパロディー的なコメディーで、倦怠(けんたい)期カップルが「シュミガドーン」という奇妙な町に迷い込むと、そこは住民たちが突然歌って踊りだすミュージカルの世界だった!という、現実とファンタジーを混ぜっ返したメタなアプローチ。エピソードごとに手を替え品を替えながら、ミュージカルのお約束を笑い飛ばす。
 
シーズン1では「メン・イン・ブラック」のバリー・ソネンフェルドが監督を務めていて、ソネンフェルドのふざけてるんだか冷めてるんだかわからない持ち味が、どこを切っても作り物感のあるフェイクな世界観に絶妙にマッチしていた。主人公カップルはシーズン1の最後に現実の世界に戻ったはずだが、またシュミガドーンの町に舞い戻るのか、それとも新たな来訪者がやってくるのか? その辺は正直どちらでも構わないので、華やかさと楽しさにほんのり狂気が混じった変わり種のミュージカルをまた存分に楽しませてもらいたい。
 
「シュミガドーン!」シーズン2 AppleTV+ 4月5日(水)から配信中


 
画像提供 Apple TV+ 

オスカーノミニー、アナ・デ・アルマスが凄腕スパイを演じるアクション「ゴーステッド」

 キアヌ・リーブスの殺し屋アクション「ジョン・ウィック」シリーズのスピンオフの主演が決まるなど、すっかりアクションづいているアナ・デ・アルマスが、トム・クルーズ&キャメロン・ディアスの快作「ナイト&デイ」を思わせるスパイラブコメでクリス・エバンスと共演。
 
デートした相手が実は凄腕(すごうで)のスパイだった!という設定はいかにも定番。しかし今回、危険なスパイ戦に巻き込まれるのはエバンスの方で、トム・クルーズもびっくりの敏腕スパイを演じるのがアナ・デ・アルマスなのである。
 
「ブロンド」で演じたマリリン・モンロー役があまりにもダウナーだったこともあり、景気のいいアクションでのアナ・デ・アルマスが見られるのはファンとしても大歓迎。しかも「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」や「グレイマン」ではあくまでも男性主人公のサポート役だったアナ・デ・アルマスに「もっと活躍の場を!」と思っていた人は筆者だけではないはず。
 
監督は「ボヘミアン・ラプソディー」を途中離脱したブランアン・シンガーから引き継いで完成させ、エルトン・ジョンの伝記映画「ロケットマン」でも手堅い実力を見せたデクスター・フレッチャー。これほどの規模のアクション大作を手がけるのは初めてだが、本作の出来によってはさらにキャリアがステップアップしそう。
 
「ゴーステッド」は4月21日(金)から AppleTV+ で配信 

ライター
村山章

村山章

むらやま・あきら 1971年生まれ。映像編集を経てフリーライターとなり、雑誌、WEB、新聞等で映画関連の記事を寄稿。近年はラジオやテレビの出演、海外のインディペンデント映画の配給業務など多岐にわたって活動中。

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