「アイミタガイ」

「アイミタガイ」© 2024「アイミタガイ」製作委員会

2024.10.26

俳優今泉マヤが見た「アイミタガイ」 胸を熱くする託された思い

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

今泉マヤ

今泉マヤ

アイミタガイ、なかなか聞き慣れない言葉だと思う。私も鑑賞するまで意味を知らなかった。漢字にすると「相身互い」。同じ境遇のもの同士が同情し助けあうという意味の言葉だ。因果応報、輪廻(りんね)転生……まったく意味は異なるが、なんとなく類似しているような、仏教的な言葉だと感じた。アイミタガイ、アイミタガイ……唱えてみるとお経のような不思議な響きの言葉だとも思う。

タイトルはさておき。黒木華さん演じるウエディングプランナーの主人公 梓(あずさ)は中村蒼さん演じる交際相手の澄人(すみと)との結婚に踏み切れずにいる。そんななか藤間爽子さん演じる中学時代からの親友の叶海(かなみ)が事故で命を落としてしまう。梓はいつしかスマートフォンを使って自分の心のうちを彼女とのトーク画面に送り続ける日々を過ごすようになる。梓にとって叶海は人生において何度も背中を押し救ってくれた大切な存在であった。ある日「叶海がいないと前に進めないよ」と送ったあと、なんと一斉に送信したメッセージに既読が付くのだが……。


 

一本の糸で紡がれる登場人物

まず私は同じ世代というのもあり、主人公の梓に共感した。梓は自分の家庭環境のこともあり、結婚をしない前提で澄人と付き合っている。だが、なんとなく適当に付き合っているわけでもなく、澄人にはもっとしっかりリードしてほしいという願いがあったり、このままで良いのかという不安も抱えたりしている。私も30代を手前にしたとき、ふと進路に迷う高校3年生のときのような感情になったことがあった。いっそのこと誰かに決めてほしいと思いながら、あれこれ考えて行動にうつせずになんとなく現状維持を選択し続ける。私の人生、このままで良いのだろうか……。

そんなとき多少無責任でもいいから、背中を押してくれる存在が欲しくなるものだ。梓の場合は親友の叶海がまさにそんな存在であった。叶海は梓と反対に、とても自由に軽やかに生きる女性だ。カメラを片手に世界を飛び回り、裏表がなく、誰とでもすぐに打ち解けてしまう。悲しいことに、映画の冒頭で叶海は事故で亡くなってしまうが、彼女は死後も梓をはじめ、さまざまな人々に影響を与え続ける。そして物語の後半にかけて、ばらばらだった登場人物たちが一本の糸で紡がれるようにつながっていく。これが〝相身互い〟ということかと腹落ちするのだが、その糸を裏で引いているのはきっと叶海であり、彼女が天国からいつも笑って見守ってくれているような、作品全体からそんな温かい空気が漂っていた。

 

作品の存在そのものが〝相身互い〟

実は今作、市井昌秀さんが脚本の初稿を手がけ、これを読んだ佐々部清さんが監督に名乗りを上げていた。ところが2020年佐々部監督が急逝。コロナ禍を経て、草野翔吾監督がそのバトンを受け取ることになったそうだ。2人の直接の接点は無かったそうだが、きっとそのプレッシャーは相当なものだったに違いない。そんななか草野監督は元々の脚本に梓と叶海の中学時代のパートを付け加え、彼女たちの心の結びつきを強めた内容にしたそうだ。だからこそ、叶海がどのような思いで生き、死後人々にどのような影響を及ぼしたのか……叶海の存在をより深く感じながら鑑賞することができたのだとふに落ちた。
 
草野監督は、どんなに作中で登場する時間が短い人物であってもその人の人生をしっかりと描きたいと語っており、その部分が佐々部さんとの共通点なのかもしれないと分析している。私も実際に佐々部作品の「半落ち」や下関三部作と呼ばれる「チルソクの夏」「四日間の奇蹟」「カーテンコール」を見て実感した。確かに、どの作品においても、登場人物たちそれぞれの(役としての)プライベートの顔や過去にも焦点があたりとてもリアルだ。どのようなテーマの作品でも〝ヒューマンドラマ〟として完成されている。そして今作ももちろん梓と叶海の友情だけではない。梓と澄人、叶海の両親、梓と祖母、梓と叔母など一人一人の人生の一部分が生き生きと描かれている。草野監督は、さまざまな人間模様があるストーリーのなかで自身のオリジナリティーを出しながら、まさに佐々部監督の思いとシンクロしていたのではないだろうか……。

梓にとって叶海の存在が心のりどころであったように草野監督にとっての佐々部監督も同じように大きな存在だったのだろうと想像するとさらに胸が熱くなった。「アイミタガイ」という作品の存在そのものが、逝ってしまった人と残された人をつなぐ糸となり、巡り巡って私たちの心にしっかりとその思いを届けてくれた。

関連記事

ライター
今泉マヤ

今泉マヤ

いまいずみ まや
2006年に福岡県福岡市でスカウトされ、福岡の芸能プロダクション、アソウスタイルオフイスに所属。2013年の西南学院大学3年時にテレビ西日本の報道番組「福岡NEWSファイルCLUB」でお天気キャスターとリポーターとして活動する。2015年4月、株式会社マリアクレイスの設立とともに本格的に女優として活動するため上京する。俳優としてCM、ドラマやキャスター等とともに絵本の出版などアーティスト活動も行っている。

この記事の写真を見る

  • 「アイミタガイ」
さらに写真を見る(合計1枚)