ひとしねま

2024.5.10

チャートの裏側:「怪獣」描写の日米差

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

米映画の「ゴジラxコング 新たなる帝国」で、気になったことがある。日本の怪獣映画との決定的な違いだ。本作から説明する。今回、ゴジラは全くの脇役で主役はコングだ。ミニコング、悪役コングまで登場する。新作が公開された「猿の惑星」のスピンオフ作品に見えた。

コングは表情が豊かだ。表情が内面の一部を表しているように描かれる。ミニコングに至っては、当初の悪童ぶりが変化し、「いい子」になっていく。その様が表情からうかがえる。コングの人間化である。そのような描き方はかつてもあったが、今回やけに目立つと言える。

日本の怪獣、その象徴であるゴジラは原則、表情を変えない。人間化されない。それが恐怖や荘厳さをかもす。言ってよければ、神的な高みさえイメージさせる。だから、さまざまな想像力をかきたてる。大きな魅力だ。米版ゴジラ映画の新作は、そのような描き方はしない。

こうも考えた。コングをメインにしたことで、怪獣の人間化が、より一層進んだのではないかと。出番が少ないゴジラの造形に人間化はないのだ。コングは、米国人にとって、特別な存在であることが想像できる。これは、日米の文化の違いにも見えてきた。最終的な興行収入は、前作「ゴジラ vs コング」(19億円)並みになるようだが、いささか物足りなさが残る。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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