「ゲバルトの杜〜彼は早稲田で死んだ〜」©「ゲバルトの杜」製作委員会(ポット出版+スコブル工房)

「ゲバルトの杜〜彼は早稲田で死んだ〜」©「ゲバルトの杜」製作委員会(ポット出版+スコブル工房)

2024.5.24

「ゲバルトの杜〜彼は早稲田で死んだ〜」 集団の論理と狂気の本質

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

1972年11月8日、早稲田大文学部キャンパスで、第一文学部2年の川口大三郎君が革マル派の「内ゲバ」によるリンチで殺害された。同事件を中心に70年代の内ゲバを追った代島治彦監督のドキュメンタリー。鴻上尚史演出の下、現代の若者たちが川口君殺害事件を再現した短編劇を途中に挟んでいる。

川口君の学友や、事件後に革マル派を追放して新しい自治会を作ろうとした樋田毅(現ジャーナリスト)、別の内ゲバ事件の関係者など十数人の生々しい証言を記録し、当時の学生たちの活動に肉薄している。これらの貴重な証言があるからこそ、当時の早稲田大キャンパス内の映像や写真なども躍動してくる。

地を這(は)うような地道な取材の積み重ねで、内ゲバに巻き込まれていく若者たちの状況や心境がよく理解できた。一方、内ゲバは70年安保闘争が警察権力によって封じ込められ、新左翼と呼ばれた各派の攻撃性が内へ向いていった結果、激化した要素もあったのではないか。そのような構造的要因を俯瞰(ふかん)して分析する部分もあればさらに深まったかもしれない。2時間14分。東京・ユーロスペース、大阪・第七芸術劇場ほか。(光)

ここに注目

リンチ殺人の短編劇が、70年代と今を近づけた。代島と鴻上が描いた学生運動には、熱量と不条理が混在する。それは日本人の心性と重なり、だからこそ学生運動末期に集団が暴走したのだろう。内ゲバの再燃はないとしても、集団の論理と狂気の本質は、時を超えてさほど変わっていないと感じた。(鈴)

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