「違国日記」 Ⓒ2024 ヤマシタトモコ・祥伝社/「違国日記」製作委員会

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2024.6.07

「違国日記」 分かり合えない者同士のラベルを貼れない関係

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

交通事故により両親を亡くした15歳の朝(早瀬憩)。葬儀の場で親戚たちの心ない言葉が飛び交うなか、叔母で小説家の槙生(新垣結衣)は勢いで彼女を引き取ると言い放つ。槙生は気が合わない姉(中村優子)とは交流がなかったが、この日から朝との新しい同居生活が始まる。

ヤマシタトモコの同名コミックを映画化。新垣が生硬な言葉の端々に誠実さと優しさをにじませる槙生を演じ、オーディションで選ばれた早瀬が人懐っこさと思春期の揺れを体現する。槙生の親友役の夏帆、元恋人役の瀬戸康史と配役のピースが見事にハマった。朝と槙生は母と娘のようになるわけではなく、ラベルを貼れない関係になっていくのが面白い。

完璧には分かり合えない者同士が自分自身のままで寄り添い、ともに暮らすことは可能なのか。整ってはいないが不思議と居心地の良さそうな部屋や、ギョーザを作るシーンなど、生活を映し出す描写を丁寧に積み重ねた。絆という言葉に居心地の悪さを感じる人におすすめしたい。瀬田なつき監督。2時間19分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(細)

ここに注目

新垣も早瀬も夏帆も立ち姿が素晴らしい。公園の緑の中を歩く場面など、何とすがすがしいことか。不器用でも他人と向き合って自分に正直に生きているからだろう。多様化した結婚観や愛の形に戸惑い、女性差別に生きづらさを感じても、背筋がピンと伸びている。(鈴)

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