「カラフルな魔女 角野栄子の物語が生まれる暮らし」©KADOKAWA.jpg

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2024.1.26

「カラフルな魔女〜角野栄子の物語が生まれる暮らし〜」 自分で喜びを生み出し味わう生き方に触れる

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

「魔女の宅急便」で知られる児童文学作家、角野栄子に4年間にわたって密着。NHK・Eテレにて放送されたドキュメンタリーが映画になった。朝から執筆をする日々の暮らしを追いかけながら、戦時中の体験や個人移民としてブラジルでも暮らした彼女の人生を映し出す。

冒頭から引きつけられるのは、鎌倉の自宅のポップなインテリア。生地から選んで仕立てたゆったりとしたワンピースやきれいな色のメガネ、コースを決めない路地裏の散歩。海辺で見つけた〝昔〟が見える食器のかけら。自分が心地よいと思うもの、しっくりくるものを知っている人の自立した生活には、豊かな人生を送るための数々のヒントが詰まっている。

不自由な時代を知っているからこそ生まれた重みのある言葉と、少女のままのような自由でみずみずしい感性。その両方に触れられるドキュメンタリー。終盤には、ブラジル時代に出会った少年との感動的な再会も描かれている。おちゃめで食いしん坊な素顔がのぞけるエンドロールも楽しい。宮川麻里奈監督。1時間37分。東京・角川シネマ有楽町、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(細)

ここに注目

自宅の椅子や本棚がカラフルなだけではない。着る服もメガネも明るく、生活全体が遊び心や楽しさに満ちている。自分で喜びを生み出し味わう生き方。まさに、角野栄子の創作のバックグラウンドを少しのぞかせてもらったような一作。何より物語への愛着、本への愛情にあふれていて心地よい。(鈴)