9月30日(土)、東京都東久留米市の自由学園にて授業を行う深田晃司監督=撮影:宮脇祐介

9月30日(土)、東京都東久留米市の自由学園にて授業を行う深田晃司監督=撮影:宮脇祐介

2023.10.19

「映画を撮るのは英語でshootと言うが、銃を撃つという意味もある」高校生に深田晃司監督がメディアリテラシーの特別授業

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宮脇祐介

宮脇祐介

1911年、映画を建築、絵画、彫刻、音楽、舞踏、文学に続く第七芸術と唱えたのはフランスの映画理論家R・カニュード。同国のリュミエール兄弟が映画公開をした1895年よりわずか16年後のことである。
 
現在、フランスでは映画館の興行収入や放送局の広告収入などから税金を徴収し、CNC(国立映画映像センター)を通じて映画・映像振興に力を入れている。さらに教育現場でも美術の時間に映画を取り入れ、世界中のさまざまな映画に幼少期から触れることができる。
 
そのフランスで行われた、2016年第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を「淵に立つ」で受賞した深田晃司監督は、日本版CNCの設立や映画教育などについて幅広い活動を行っている。20年春に始まったミニシアター・エイド基金の発起人としても記憶に新しいところだ。
 
そんな深田監督が9月30日(土)、東京都東久留米市の自由学園にて「映画を通じて学ぶメディアリテラシー」と題した授業を行うというので参加してみた。担任の高野慎太郎先生の「探求」の時間で映画を学んでいるというので一般の学生よりも理解度は高そうだ。土曜日の特別授業ということもあり、希望者21人が真剣に話に耳を傾けた。
 

銃を撃つという意味もある

深田監督は「映画とはあらゆる映像の『基礎研究』にあたる表現」と定義をして授業を始めた。
 
写真の発明から連続写真、映画への発展と歴史について語る途中で「映画を撮るのは英語でshootと言うが、銃を撃つという意味もある。映画を撮るカメラの原形で連続写真を撮るカメラは写真銃と言われ、マシンガンそのもののような形をしているものがある」と映像の危険性をその言語や形状から示唆した。

 

誰かの「意図」や「演出」が介在する

その上で映画の誕生も主に1988年のルイ・ル・プランス、93年アメリカのトーマス・エジソン、95年フランスのリュミエールと言われているが、プランスの映画は一般公開されず、エジソンの最初の映画は一人鑑賞用だったのに対し、リュミエールによって初めて複数の観客に対し映画がスクリーンに投影された「興行」が行われたことを強調した。
 
その流れでリュミエール兄弟の最初の商業映画の1本「工場の出口」を例に授業を続けた。まずはWikipediaの映画史についての記載に疑義を指摘。「『リュミエール兄弟らが公開した〜単なる情景描写にすぎなかったが、〜』と書いているのは本当だろうか? 映画が始まると従業員たちが一斉に工場を出てくる。門から出てくる人が当時大きくて珍しいカメラを決して見もしないことや、途中で犬や当時最先端の乗り物自転車が出てくるなど多くの演出が施されている」とWikipediaなど活字化されているものの危うさと、あらゆる映像には誰かの「意図」や「演出」が介在することを指摘した。


 
また、戦前の日本の映画館でかかるニュース映像を流しプロパガンダの記録を鑑賞した。「映像は誰かの意図が反映されている」と再び警鐘を鳴らした。
 
「1915年公開のアメリカ映画『国民の創生』が映画的には名作と言われているが、黒人をステレオタイプに描いたり、白人俳優が顔を黒塗りして演じたりという問題点が指摘されている。この約70年後の89年に『ドゥ・ザ・ライト・シング』で脚光を浴びたスパイク・リー監督などアメリカの黒人監督の活躍を経て、2018年黒人スタッフ中心に製作された『ブラックパンサー』が大ヒットした」ことを紹介し、白人中心の社会を反映してきたアメリカの映画製作状況の変遷も紹介した。
 

他者に向けてフィードバックする

その上で映像を作る意義を語った。「初の映画興行を成功させたリュミエール兄弟は次に世界中にカメラマンを派遣して異文化を撮影し、フランスで興行した。新潟県上越市にある日本で現存する最古級の映画館の名前は高田世界館という。映像は今も昔も未知の世界を知るための窓であった。人間はそれぞれ同じ世界に生きているようで、見えている世界は違う。映像などの表現は自分に見えている世界を他者に向けてフィードバックすること」と誰もが表現の当事者になれることの必要性を説いた。

 

情報社会に生きている当事者である

メディアリテラシーについても同様に「映像には意図があるからこそ主体的に接すること、気をつけて発信することが大事」と話した。そして、「現実世界でやってはいけないことは、ネットでもやらない。例えば、大抵の人は学校で嫌いな人がいても悪口をいきなり黒板には書かない。でもネットだと匿名の気軽さから書いてしまう」とネット社会の危うさを分かりやすく伝えた。
 
授業を聞いた3年生の八谷早記さん(18 )は「何となく気づいていたことを具体的に視覚や言語にして教えてもらい共感をもったし、情報社会に生きている当事者であると強く感じた」と熱をもって答えてくれた。
 

映像の指導を学校教育に

僕は以前、町内の学童野球を指導していた。その時「指導者は『何でできないんだ!』と言ってはいけない。『こうすればどうだ?』とできるようになるコツを教えることが大切だ」と甲子園にも出場し、社会人野球でも活躍した先輩の指導者から伝えてもらった。
 
目を覆うような動画投稿で世間を騒がせる人がいる。「何でそんなことをするのか!」と批判するのではなく、深田監督のようにわかりやすく映画を通した映像の指導を学校教育に取り入れることが、この「映像の時代」と言われる今日には急務だと感じた授業見学の体験だった。

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ライター
宮脇祐介

宮脇祐介

みやわき・ゆうすけ 福岡県出身、ひとシネマ総合プロデューサー。映画「手紙」「毎日かあさん」(実写/アニメ)「横道世之介」など毎日新聞連載作品を映像化。「日本沈没」「チア★ダン」「関ケ原」「糸」「ラーゲリより愛を込めて」など多くの映画製作委員会に参加。朗読劇「島守の塔」企画・演出。追悼特別展「高倉健」を企画・運営し全国10カ所で巡回。趣味は東京にある福岡のお店を食べ歩くこと。

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  • 東京国際映画祭・黒澤明賞を受賞した深田晃司監督(左)とアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督
  • 東京国際映画祭・黒澤明賞のトロフィーを受け取る深田晃司監督(左
  • 第79回ベネチア国際映画祭の深田晃司監督=ロイター
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