「アイミタガイ」主演の黒木華

「アイミタガイ」主演の黒木華新宮巳美撮影

2024.11.09

黒木華「ステキだったよ」褒められたうれしさ、今でも 「アイミタガイ」

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勝田友巳

勝田友巳

「演じることが、ただただ楽しい」と黒木華。舞台に映画にドラマに、アクの強いくせ者から地味な引っ込み思案まで、剛柔自在。微細な表情の変化で複雑な感情を繊細に表現する。秘訣(ひけつ)は?「うーん、悲しいときは悲しく、うれしいときはうれしく……」。理屈よりも感性で、役へと入っていくようだ。「アイミタガイ」で演じた梓は、親友を亡くし、恋人との結婚に踏み切れないウエディングプランナー。「悩みながら一生懸命、自分の人生を生きている人です」


演じることで存在できた

「小さい頃って、親に褒められるのがすごくうれしいじゃないですか。みんなで演じた時にステキだったよと褒められたのが、なんとなく今でも続いているのかも」。高校時代から演劇部で活躍し、大学在学中に野田秀樹の舞台でデビュー。たちまち舞台から映画、テレビへと活動の場を広げ、2014年映画「小さいおうち」(山田洋次監督)ではベルリン国際映画祭最優秀女優賞を受賞。24年も映画4本が公開され、舞台にも立った。

「元々、コミュニケーションが苦手で、誰かを演じることで存在できた。自分以外になれるのが楽しいし、舞台を見てくれた人が何かを感じてくれたり、持って帰ってくれたりすることがすごくうれしい」と演技の魅力を語る。「セリフは決まっているから、それを言えばいいですし。自分の言葉でしゃべらなくていいから、楽ですよ」

選ぶ役は「脚本が魅力的だとか、この監督と、あの役者さんとやってみたいとか。好奇心をくすぐってくれるものだと思います」。「アイミタガイ」は、草野翔吾監督のたっての希望。「『ご一緒したい』とすごく言ってくださって。私でよければっていう感じでした」。梓は「普通に自分の人生を生きているからこそ、見ている人が感情移入できる。誰でも悩むことはあると思いますが、彼女も悩みながら一生懸命に生きている人だと思う」。


「アイミタガイ」© 2024「アイミタガイ」製作委員会

引き出しがある方ではないと思う

役は作りすぎないで現場に臨むそうだ。「脚本を読んでこういう人かなと想像することはありますけど、それがすべてではないですから。監督が思い描く人物像が正しいのでしょう。作品の中で、その人としていられるような役者だといいなと思います」

話す口調は穏やかでフンワリとしていても、映画「幕が上がる」の熱血演劇部顧問も、ドラマ「イチケイのカラス」の堅物で真面目な判事補も、ピタリとはまる。「引き出しがあればいいなと思ってますけど、そういうタイプではなくて。人に興味があるんでしょうね。普段生きてく中で、ああいう人もいるんだな、こんな人がいたなとか、見た映画の役から引っ張ってくることも」


映像は怖い 後悔ばかり

出演作が途切れず並ぶ。「次々と演じることは、気にならないです」。役は引きずらないのだという。NGが出ても「自分ができてないから仕方ないよなって思ってしまうので、苦しいとは感じない。失敗しても、時間が過ぎていきますから。過去のことを忘れてくタイプなので、あんまり覚えてないんですよね」。楽天的なようでいて、実はネガティブ思考に陥りがちでもあるとか。「考えすぎると変な方向に行ってしまいそうなので、フラットでいようと」

映画での活躍が目立っているが、根は舞台人。映像を楽しめるようになったのは、20代を過ぎてからという。「映像は怖いです。瞬間を切り取ってるから、ああすればよかった、もっとできたと考えてしまう。だから初号以外は見ないです、恥ずかしいから。後悔ばっかり。だから監督のせいにしてます。監督がいいって言ったからいいや、みたいな」

「またまだ演じてない役がいっぱいあります。そういうのをやってみたい。殺人鬼とか死体とか動物とか。おばあちゃんもおじいちゃんも」。明るく続けるのだった。

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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